遺伝子マーカーで把握した蓄養キハダの産卵生態


[要約]全米熱帯性まぐろ類委員会(IATTC)アチョチネス研究所(パナマ)の陸上タンクに収容したキハダ親魚ミトコンドリアDNA遺伝子型多型を応用して産卵雌親魚の特定を行い、産卵時期及び頻度についてモニターした。タンクに移してから1〜3ヶ月後に産卵する個体が多かった。水槽への収容時点で比較的大型の個体から産卵していた。産卵開始までの日数と推定成長率から、タンク内での初回産卵時の体重は12〜28kgと推定された。一日に複数の雌個体が産卵を行っていることが多かった。サンプリングした日のほとんどに出現するタイプが見られることから、ほぼ毎日に近い間隔で周年にわたって産卵している個体がいることがわかった。

遠洋水産研究所 浮魚資源部 熱帯性まぐろ研究室

[連絡先]0543-36-6013

[推進会議]遠洋漁業

[専門]資源生態

[対象]まぐろ

[分類]研究


[背景・ねらい]

近年、クロマグロやキハダといった大型の高度回遊性魚類でも蓄養が産業化されるとともに飼育下での産卵及び種苗生産が行われるようになった。放流を視野に入れた種苗の大量生産技術が確立されつつある一方で、種苗の遺伝的多様性の低下が指摘されている。産卵に関与する親魚数が少ない可能性があることがこのような懸念の原因であるが、蓄養下での自然産卵においてはどの親がまた何個体が産卵に関与しているのか、さらに1個体がどれくらいの期間産卵するのかについて研究した例は事実上皆無である。本研究では、陸上タンクで蓄養されているキハダ親魚と受精卵及び孵化仔魚の遺伝子型分析によって産卵雌親魚の識別を行い、タンク内における親魚の産卵生態を明らかにすることを目的とした。

[成果の内容・特徴]

・キハダ親魚をタンクに収容する際に、個体識別のためのICチップを埋め込むとともに鰭膜の一部を採取した(図1)。鰭組織を採取できなかった個体に関しては死亡後に筋肉組織を採取した。これら親魚ミトコンドリアDNA(mtDNA)の高度可変領域(Dloop)をPCR法によって増幅し、制限酵素法による遺伝子型決定を行った(図2)。

・収容親魚38個体で27種類の遺伝子型が見られ、このうち18個体が独自の遺伝子型を持っていた。

・1999年8月〜2000年8月の1年間、産卵はほぼ毎日観察された。卵と孵化仔魚の採集を1日〜2週間の間隔で計48回行い遺伝子型分析を行ったところ538個の卵仔魚で10種類の遺伝子型が見られた。

・2001年4月までに27個体の親魚が壁への衝突で死亡し、生殖腺観察によって雌雄の同定ができた。雄を分析から除外することによって、卵仔魚でみられた10種類の遺伝子型のうち9種類の遺伝子型と一致する親魚雌個体が特定できた。

・これら9個体の遺伝子型と同一の卵仔魚が出現した日にその親魚が産卵したと考えられる。そこで、各親魚の産卵頻度と期間を分析したところ、ほぼ1年間にわたって卵仔魚採集日のほとんどにおいて産卵している個体がいることがわかった(表1)。また、産卵開始可能最小サイズが12〜28kgと推定され、天然魚での観察結果とほぼ一致した。

[成果の活用面・留意点]

キハダがほぼ毎日といった短い間隔で産卵することは天然魚の組織学的観察でも示唆されてきたが、分子遺伝学的手法を応用することによって今回直接的証拠を得ることができた。さらに、個体ごとの産卵生態を追跡することによってかなり長期にわたって産卵している雌がいるという新知見が得られた。また、このような遺伝学的手法を用いることによって、種苗の遺伝的多様性維持の管理が可能である。

[具体的データ]

図1 タンクへ収容するキハダ幼魚へのICチップ埋め込みと鰭膜組織採集

図2 6種類の制限酵素処理で見られたmtDNA Dloop領域増幅断片における切断片長多型

表1 キハダ親魚9個体の産卵パターン

[その他]
研究課題名:DNA分析によるまぐろ・かじき類の種判別とストック識別及び手法の簡便迅速化

研究期間:平成13〜17年度

研究担当者:張 成年(企画連絡室)・丹羽幸泰(インテムコンサルタンツ)・中澤昭夫(OFCF)・V. P. Scholey (IATTC)

発表論文等:

Chow, S., Scholey, V. P., Nakazawa, A., Margulies, D., Wexler, J. B., Olson, R. J. and Hazama, K. (2001): Direct evidence for Mendelian inheritance of the ribosomal protein gene intron variations in the yellowfin tuna (Thunnus albacares). Marine Biotechnology 3: 22-26.

丹羽幸泰・中澤昭男・Scholey, V. P. ・張 成年 (2001): MtDNA多型を利用した養成キハダの産卵親魚判定.平成13年度日本水産学会春季大会講演要旨集. p.123.

張 成年・丹羽幸泰(2001): 遺伝子マーカーでモニターした蓄養キハダマグロの産卵生態. 第5回マリンバイオテクノロジー学会大会(マリンバイオ静岡2001)講演要旨集. p.32.