炭酸ガス超臨界流体を用いる生物中有害物質の簡易抽出新手法


[要約] 超臨界状態二酸化炭素による生物中有害物質の抽出・精製の前処理を自動化した簡易抽出新手法(超臨界流体抽出法、SFE)を開発した。本法は、2日間要した従来の前処理過程を約1〜2時間に短縮するとともに有害物質の回収率も良く、分析業務を省力化することができた。

瀬戸内海区水産研究所・環境保全部・水質化学研究室

[連絡先]0829-55-0666

[推進会議]漁場環境保全

[専門]有害物質汚染

[分類]調査


[背景・ねらい]

 PCBsなどの魚介類中有害物質の分析に要する時間と労力は、そのほとんどが前処理にかかるものである。溶媒抽出、分析妨害物質の除去を行う前処理における労力と時間を大幅に省き、多量な有機溶媒を使用しない環境に優しい新たな前処理法の開発が求められている。

 炭酸ガスは高圧下では超臨界状態になり、超臨界流体は生物組織中に浸透し、組織中の脂溶性有害物質を効率的に溶解させる。有害物質を含有する超臨界流体を大気圧に戻すと炭酸ガスは気化し、組織から抽出された有害物質が残存する。これを少量の溶媒で溶解・分取することにより効率的に有害物質を抽出することができる(図1)。そこで、最適な抽出効率が得られる装置の運転条件を検討するとともに、開発した手法を魚介類試料に適用し、その有効性を確認した。

[成果の内容・特徴]

 (1)抽出時の圧力を最適に調整することによって、3塩化から9塩化PCBsを80%以上の回収率で効率的に抽出することができる(図2)。また、有機塩素系農薬類(OCs)及び多環芳香族炭化水素類(PAHs)の回収率は、80%以上であり、SFEが非極性有害物質の抽出に適用できることが明らかであった。

 (2)SFEによって前処理した試料中のOCs濃度は、従来の溶媒抽出法(アセトン−ヘキサン抽出、ジエチルエーテル抽出)で抽出・測定した値とほぼ同じか、あるいはSFE前処理の方がやや高い値を示した(図3)。したがって、試料中のOCsはSFEにより効率的に抽出・回収されていることが明らかになった。

 (3)抽出効率改善のためのモディファイヤ−として炭酸ガスに少量の溶媒が添加される。メタノ−ルやアセトンが抽出効率を改善し、モディファイヤ−として使用できることが明らかであった。

 (4)魚肉等の生物試料からPCBs、OCs及びPAHsの抽出の最適条件は表1のとおりであった。SFEは、従来2日程度の時間を要した前処理時間を1〜2時間に短縮することができ、分析を効率的に行うことができた。

[成果の活用面・留意点]

 SFEによる前処理は、多数試料の前処理を伴う定型的な汚染実態把握調査のための分析には有効である。しかし、有機スズ化合物など極性物質には適用できないことに留意すべきである。

[具体的データ]

図1 SFEの原理

図2 PCBs抽出効率に対する抽出密度の影響

図3 ムラサキイガイ中有機塩素化合物濃度の抽出法による差異

表1 PCBs、OCsおよびPAH抽出におけるSFE最適条件


[その他]

研究課題名:有機塩素及び有機スズ化合物分析前処理の簡易化

予算区分:公害防止〔指標生物〕

研究期間:平成9年度〜平成11年度

研究担当者:田中博之(瀬戸内海区水産研究所 環境保全部 水質化学研究室)

発表論文等:第4回バイオアッセイ研究会・日本環境毒性学会講要、p.56、1998.10