中国揚子江で小型イルカ(スナメリ)の音響探知に成功


[要約]小型鯨類であるスナメリは超音波ソナーを持っている。このソナー音を利用してイルカの存在を音響自動観測できるシステムを開発した。無人で長期間連続運用できるため、絶滅が危惧されるヨウスコウカワイルカや、沖縄県のジュゴンなどにも応用が期待できる。

水産工学研究所・水産情報工学部 行動生態情報工学研究室

[連絡先]0479-44-5953

[推進会議]水産工学

[専門]計測

[研究対象]歯くじら

[分類]研究


[背景・ねらい]

 近年、国内外において沿岸域の海洋開発を行うにあたり、鯨類や海牛類の存在の事前確認が、極めて重要な課題となっている。山口県上関町に建設予定の上関原子力発電所周辺海域では、ワシントン条約付属書Tに記載される小型鯨類のスナメリ(図1)が認められている。また、米軍普天間飛行場の移設問題で注目される沖縄県名護市沖ではジュゴンが確認され、大きな問題となっている。現在、世界でもっとも絶滅が危惧されている哺乳動物のひとつであるヨウスコウカワイルカ(図1)が生存している中国の揚子江では、急速な市場経済化による水上交通と汚染の拡大が深刻となっている。「河のパンダ」として、中国政府が国家的に保護を推進しているこの種の保全には、全流域で100頭を切ったといわれる個体群の存在確認が、必要不可欠である。

[成果の内容・特徴]

 鯨類及び海牛類は、互いの識別や、水中探査(ソナー)能力のため、独特の鳴音を発することが知られている。本研究では、まず、スナメリという小型のイルカに録音装置を取り付け(図1左)、数秒に1回の頻度で140kHz付近の超音波鳴音が発せられることを確認した。この音は、一秒間に14万回振動する、非常に高い音で、人間の耳では聞こえない。さらに、走行中の船舶から(図2)、この信号を選択的に観測できる装置を開発し、中国の揚子江に生息するスナメリの存在確認を、高い確率で行うことに成功した。検出可能距離は300mに達し(図2)、目視観察が不可能な夜間でも探知できるため、動物の存在確認手法として有効であることが示された。この技術は、我が国がすすめている鯨類の資源管理のための調査精度を向上させるためにも、役立つだろう。

[成果の活用面・留意点]

 鯨類だけでなく、海牛類も含むさまざまな海洋生物を選択的に観測できるように、受信システムを改善する必要がある。とくに、ヨウスコウカワイルカやジュゴンなどの、希少種を観察対象とするには、船舶搭載型以外に、長時間待ち受け型の音響観測ブイの開発が必要である。

[具体的データ]

図1 スナメリ(協力;中国科学院水生生物研究所)ヨウスコウカワイルカ(撮影 笹森琴絵)

図2 調査船(左)音響的な探知率

 揚子江の流れに沿って、下流に航行しつつ観測を行った。上部デッキにみえる観察者は、目視でイルカの発見に努めた。目視調査と比較した音響探知率。発見距離300mまでは、音響的にも高い確率で探知可能であった。


[その他]

研究課題名:漁業資源量調査手法開発のための水産生物の感覚特性の計測(経常研究)

研究期間:平成13年〜17年

研究担当者:水産工学研究所水産情報工学部行動生態情報工学研究室 赤松友成

発表論文等:赤松友成, 2002, 動物のおしゃべり解読学 声に出るクジラとイルカの生活様式, 日経サイエンス, 364, 64-66.

                Akamatsu, T., Wang, D., Wang, K. and Wei, Z., 2001, Comparison between visual and passive acoustic detection of finless porpoises in the Yangtze River, China, J. Acoust. Soc. Am., 109, 1723-1727.

                Akamatsu, T., Wang, D., Wang, K. and Y. Naito, 2000, A method for individual identification of echolocation signals in free-ranging finless porpoises carrying data loggers, J. Acoust. Soc. Am., 108(3), 1353-1356.

                赤松友成, 1999, イルカはどこを見ているか, 遺伝 53(11), 62-64.