定置網(二段箱式落網)の防災対策における各部網撤去の効果


[要約]相模湾西部では急潮警報が発せられてから1〜2日後に定置網に急潮が到達する。この間に,漁業者が現場で講じる対策として,二段箱式落網を対象に構成する各部の網を撤去した場合の抵抗減を検討した。その結果、第一箱網(撤去時間 約3時間)の撤去が最も有効であるが,時間制限が3時間未満の場合には第二箱網(撤去時間 約2時間)を撤去し,張力の削減を図るとともに,漁獲物入網による抵抗の増加を併せて避けることも有効な防災対策と考えられる。

神奈川県水産総合研究所 相模湾試験場

連絡先]0465-23-8531

[推進会議]水産工学

[専門]漁業生産技術

分類]普及


[背景・ねらい]

相模湾西部では急潮警報(Fig.1)が発せられてから1〜2日後に定置網に急潮が起こることが多い。この間に,漁業者が現場で対応策を講ずる時間は短く数時間程度と見られる。この時間内に定置網被害防止の有効な対策を講じることが極めて重要である。ここでは,流れに対し定置網(二段箱式落網 Fig.2)を構成する各部の網を撤去する場合の効果を比較検討する。

[成果の内容・特徴]

   現場において数時間で撤去可能な範囲は,運動場,登網,第一箱網,第二箱網など個々の部分に限られる.回流水槽(Fig.3)実験に使用した模型網は田内の漁具実験比較則により作成した.実験は運動場,登網,第一箱網,第二箱網の中で1箇所のみを撤去した場合について,網成りと矢引台浮子の渡綱に作用する張力を測定し,各部撤去の効果について検討した。

   急潮時に対応する0.7m/sの時には,網を撤去しない場合,矢引台浮子を下方とした側張の傾斜沈下により運動場から第二箱網に至る全ての網が抵抗を受ける.最も下流に位置する第二箱網の魚取部は,強流により太く膨らむ. 運動場を撤去すると,側張傾斜がやや少なくなり,登網,第一および第二箱網の厚みが減少する。登網を撤去した場合,第一および第二箱網の厚みがさらに減少する。第一箱網を撤去した場合,第一箱網を抜いた部分を直接に流れが通過して第二箱網の底網を吹き上げるためにさらに薄くなる。第二箱網を撤去すると,網成りは網を撤去しない場合に良く似た形状を示す。以上のことから上流部の網を撤去すると,その隙間を通過する強流が下流部の網の厚みを減少させることになる。したがって,上流部の網を撤去することが,流れに対する網の全抵抗をさらに減ずることになり,防災対策に効果的であると考えられる(Fig.4)。

 網の各部分を撤去した場合,流速に対する矢引台渡綱の張力変化が防災対策上の問題点としてあげられる。流速に対する張力の変化(Fig.5)をみると,各部の網の撤去に関わりなく酷似している。特に運動場,第二箱網を撤去した場合の張力は,同一の変化を示す。流速0.4m/s以下では変化は小さく,加速度的に増大している。0.5m/s以上になると,変化は大きく,しかも直線的に増大している。全網を備えた場合に対する各部の網を撤去した場合の張力を比較すると,第一箱網を撤去した場合が最も小さく,次いで登網を撤去した場合であり,最後に運動場,第二箱網の2網を撤去した場合がほぼ等しい状態で続いている。このことから,網撤去による張力削減は,第一箱網が最も大きく,次いで登網となり,第一箱網の撤去が被害防止対策に最も有効である。

考 察 撤去作業が最も短時間で完了する部分は第二箱網の約2時間,次いで第一箱網の約3時間,登網の約3.5時間,運動場の約4時間の順である。3時間以上の作業時間が確保できる場合には第一箱網の撤去が最も有効である。しかし,時間制限が3時間未満の場合には第二箱網を撤去し,張力の削減を図る。

[成果の活用面・留意点]

成果の活用面

     急潮警報が発令された場合の漁業者の対応策として実用できる。

留意点

     底層網、中層網、猪口網等については抵抗の発生機構が異なるため今後の実験による検討が必要である。

[具体的データ]

Fig.1 急潮警報

Fig.2 二段箱式落網

Fig.3 回流水槽

Fig.4

Fig.5 流速に対する張力の変化


[その他]

研究課題名:波浪等漁具防災対策試験

研究期間  平成12

研究担当者:石戸谷博範

発表論文等:・漁具流体力学,漁具の災害防止,日本水産学会誌,66(5)897-899(2000)

       ・相模湾の急潮と定置網の防災に関する研究,東京大学博士学位審査論文,1211(2000)

       ・漁具の物理学,定置漁具の災害とその防止策,成山堂,186216(2001)