天然海域に放流したヒラメ人工種苗の脂質変化の解明


[要約]放流ヒラメ天然海域における脂質変化を明らかにするため放流・天然ヒラメの脂質含量,脂質組成,脂肪酸組成を調べた。放流魚の脂質は可食部(筋肉)では放流後10〜30日程度の短期間で天然魚と同様のものへと馴化していることが判明した。

千葉県水産研究センター 生産技術部 流通加工研究室

[連絡先]0470-43-1111

[推進会議]水産利用加工

[専門]水産成分

[対象]ひらめ

[分類]研究


[背景・ねらい]

 栽培漁業において多くのヒラメ人工種苗が放流され,重要な漁業資源になっている。しかし,市場で放流魚は天然魚に比べ低価格で取り引きされることがある。人工種苗は全長約100mmまで飼育され,放流後は概ね1年以上を天然海域で過ごすため,漁獲されるまでに天然に馴化すると推測されるが,体成分等の変化については不明である。そこで,養殖・天然の差異が最も顕著に反映すると考えられる脂質成分に着目し,放流後の変化を明らかにすることにより,放流ヒラメの市場評価の改善に寄与しようとした。

[成果の内容・特徴]

(1)天然魚の筋肉の脂質含量は,年間をとおして約1%前後でほとんど変化がなかった(図1)。放流魚の筋肉の脂質含量は,放流時に2.5〜4.5%であったが,放流後7日には約1%まで減少し,以後はほとんど変化しなかった(図2)。

(2)天然魚の筋肉では,脂質の大部分がリン脂質(PL)で,トリグリセライド(TG)はわずかで,年間をとおして脂質組成はほとんど変化しなかった。放流時の種苗の筋肉では,PL含量が約 1%で天然魚に近かったが,TGは 2.5%で天然魚より高かった。放流後7日以降は,筋肉脂質の大部分がPLとなり,天然魚とほぼ同様な脂質組成となった(図3)。

(3)筋肉PLの脂肪酸組成は,放流時にポリエン酸の組成比が約50%であったが,放流30日以降は約60%となり,天然魚に近い値となった(図4)。放流時にはC22:6のほかC16:0,C20:5も多く含まれていたが,放流後30日以降にはC22:6の含有量が著しく高くなり,全脂肪酸の約40%を占めるようになった。

(4)天然海域に放流された人工種苗の脂質は,可食部(筋肉)では放流後10〜30日程度の短期間で天然のものに近づき,漁獲対象となる1年以上を天然海域で過ごしたものは,天然魚とほぼ同じであることが判明した。

[成果の活用面・留意点]

 本研究によりヒラメ人工種苗の放流後の脂質特性の変化が明らかとなり,これを普及させることにより放流魚の市場評価の改善に寄与できるものと考えられる。なお,放流ヒラメの特性変化については,他の成分特性や外観,肉質も含めてさらに詳細な検討を行う必要があると思われる。

[具体的データ]

図1 天然魚(筋肉)の脂質含量の季節変化

図2 放流魚(筋肉)の脂質含量の変化

図3 天然魚(筋肉)および放流魚(筋肉)の脂質組成の変化

図4 筋肉PLの脂肪酸組成の変化


[その他]

研究課題名:種苗放流技術開発事業

研究期間:平成7〜11年度

研究担当者:川島時英

発表論文等:天然海域に放流したヒラメ人工種苗の脂質変化,日本水産学会誌,2001年度投稿中