圧力を利用した新しい食塩無添加魚醤油の開発と応用


[要約]微生物の発育できない圧力を保持したまま、魚介類の自己消化による分解条件を調べた。60MPa・50℃・48時間の条件で市販の醤油や魚醤油に含まれるアミノ酸量や窒素濃度と同程度以上の食塩無添加魚醤油を製造できた。

広島県立食品工業技術センター・流通保全技術部

[連絡先]082-251-7431

[推進会議]水産利用加工

[専門]加工流通技術

[対象]魚類

[分類]研究


[背景・ねらい]

 水産魚介類の自己消化を利用した調味料として、東南アジアや日本の一部の地方で製造される魚醤油がある。この調味料には、熟成中の腐敗を防ぐために20%以上の食塩を添加することが不可欠である。本技術ではこの食塩の代わりに圧力を利用する。すなわち、微生物が発育できない圧力を保持することで腐敗を防ぎつつ、魚を最適な自己消化条件で分解する。

 この方法で製造した食塩無添加魚醤油は、調味料として幅広い利用ができるだけでなく、魚に含まれるエキス成分(タウリン、クレアチン)やペプチドが豊富に含まれるので、栄養的、機能的側面からも幅広い活用が期待できる。

[成果の内容・特徴]

・最初に、微生物の発育を抑制できる圧力を調べた。大腸菌(E. coli)、耐熱性のある胞子(Bacillus subtilis、Clostridium sporogenesなど4株),酵母としてSaccharomyces cerevisiaeおよび好塩性のZygosaccharomyces rouxiiを用いた。その結果、いずれの微生物もその発育最適温度において、50 MPaで発育が抑制された。実用的で、より安全な発育抑制圧力として、60MPaを加圧条件とした。

・魚の自己消化には最もよく分解する温度帯が存在する。加圧下での最適分解温度を調べるために、カタクチイワシを用いての自己消化に対する温度の影響を調べた。自己消化によって生成したアミノ酸量と温度の関係を図1に示した。この場合、圧力と処理時間は60MPa、24時間とした。その結果、50℃で最もよく分解し、24時間であっても90mg/gの遊離アミノ酸を含んでいた。

・次に圧力による分解時間の検討を行った。処理時間と生成したアミノ酸量の関係を図2に示した。その結果、48時間処理でアミノ酸量は120mg/gに達した。この値は、市販の醤油(約90mg/g)や魚醤油(約100mg/g)に比べて高い値であり、短時間であっても(48時間)十分な遊離アミノ酸を生成していた。したがって、一般の魚醤油では熟成に要する時間が半年から2年程度かかることを考えると本技術は極めて短時間で製造が可能である。

・以上の結果から、圧力を利用した自己消化分解条件を、60MPa・50℃・48時間と決めた。この条件で製造したカタクチイワシ、マイワシ及び小エビの分解物のアミノ酸組成を図3に示す。旨味アミノ酸(Glu、Asp)、甘みアミノ酸(Ala)、必須アミノ酸(Lys)は特に多く、1%以上含まれていた。また、分解液の全窒素は、約2.5%、アミノ態窒素は約1.4%を示し、市販の醤油や魚醤油に比べても遜色ない値であった。また、魚醤油のような強い香りを有していないことやアンギオテンシンI変換酵素阻害活性(試験管内での血圧降下作用)を有しているなど、優れた特徴があった。

・魚の自己消化を利用した水産加工品としてイカの塩辛がある。これに本技術を応用したところ、塩辛の食塩濃度を任意にすることができ、さらに短時間で塩辛を熟成(タンパク質の酵素分解)させることができた。したがって、任意の食塩含量の塩辛をアルコール等の防腐剤を添加しないで製造することができる。

[成果の活用面・留意点]

 本技術によって食塩無添加の魚醤油を短時間で製造することができた。食塩を添加していないので、「醤油」としてよりも「ダシ」や「タレ」としての利用が期待できる。また、原料に含まれるタウリンやクレアチン、さらにビタミン類がそのまま分解液に移行していることや、タンパク質が分解して生成するペプチドには機能性が確認されたことから、健康食品的な応用が期待できる。なお、圧力分解装置のコストを考えると、後者への応用が実用化に近い。

 留意点として、食塩を添加していないため、分解液は腐敗しやすく製品の微生物的管理について注意が必要である。

[具体的データ]

図1 カタクチイワシの圧力下自己消化に対する処理温度の影響

図2 カタクチイワシの圧力下自己消化に対する処理時間の影響

図3 カタクチイワシ、マイワシ及び小エビの圧力下自己消化による分解液の遊離アミノ酸組成


[その他]

研究課題名:タンパク系素材の圧力酵素分解技術の開発

予算区分:国補研究

研究期間:平成13〜14年度

研究担当者:岡崎尚、青山康司、重田有仁

発表論文:日本食品科学工学会第48回大会講演集(2001)、p193〜p194.、

その他:平成11年10月に広島県特許として出願