ウイルスで誘起された魚類細胞のアポトーシスにおけるカスパーゼ活性の検出


[要約]魚類細胞のアポトーシス(自発的細胞死)機構を解明するため,サケ由来の培養細胞にウイルス性変形症ウイルスを接種したところ,アポトーシスに伴ってカスパ−ゼ活性の上昇が検出された。このことから魚類細胞のアポトーシスにおいても他の動物と同様のシグナル伝達が行われていることが示唆される。

中央水産研究所生物機能部生物特性研究室

[連絡先]045-788-7644

[推進会議]中央ブロック

[専門]魚介類機能

[対象]魚類

[分類]研究


[背景・ねらい]

 細胞が細胞内外からの刺激によってアポトーシスを起こして死亡する際には,最終的な細胞死が起こるまでに,その刺激を伝達する機構が活性化される必要がある。多くの動物細胞においてその役割を果たしているのは,カスパーゼと総称される一群のタンパク質分解酵素である。カスパーゼは他のカスパーゼ前駆体の一部を選択的に切断することによりそれを活性化し,活性化したカスパーゼがまた他の酵素を活性化する,という一連のカスケード機構により情報伝達が行われているといわれる。近年魚類においても,正常な発生過程やウイルス感染時などにおいて「核濃縮を伴う細胞死」と従来言われてきたものがアポトーシスであることが明らかになってきており,極めて普遍的な生命現象であることがわかってきた。また,放射線による細胞死もアポトーシスである場合が多いことがわかっている。しかし魚類の細胞では,外部からのあるいは内部の刺激が,どのような細胞内情報伝達機構を介してアポトーシスを誘起するかの研究は進んでいない。本研究では魚類のウイルス感染におけるアポトーシスにおいても,他の動物におけるのと同様の,カスパーゼによる情報伝達が起こるのかどうかを確かめることを目的として行った。

[成果の内容・特徴]

(1)魚類培養株化細胞CHSE-214 にウイルス性変形症ウイルス(Viral deformity virus, VDV)を接種し,経時的に細胞を回収して形態学的観察を行ったところ,最大10%程度の割合でアポトーシスに特徴的な核や細胞質の変性を起こしている細胞が観察された(表1および図1)。

(2)特異的なペプチド基質を用いて各種カスパーゼ(1,2,3,4,6,7,8,9)活性の検出を行ったところ,おおむねウイルス接種後5時間後をピークに活性が検出された。ウイルス接種以前の細胞からはカスパーゼ活性は全く検出されなかった。カスパーゼ3+7のみはピークが10時間後にみられた(図2)。

(3)この結果は魚類細胞のアポトーシスにおいても各種カスパーゼが情報伝達に重要であることを示している。

[成果の活用面・留意点]

 本研究で得られた結果は,今後魚類の胚発生,魚類のウイルス感染時の病理,あるいはオゾン層の破壊により増加した紫外線の魚類卵稚仔への影響などを研究する上で有用な基礎的知見となりうる。

[具体的データ]

表1 ウイルス摂種によりアポトーシスに特徴的な形態変化を起こした細胞の割合

図1 ウイルス摂種10時間後の細胞

図2 ウイルス摂種後のカスパーゼ活性の変化


[その他]

研究課題名:魚類培養細胞におけるプログラム細胞死(アポトーシス)誘導機構に関する研究

予算区分:科学技術振興調整費

研究期間:平成 11〜12 年度

研究担当者:三輪 理・荒西太士・宇田川美穂

発表論文等: 三輪 理・荒西太士・間野伸宏 「魚類培養細胞のウイルスによるアポトーシスとカスパーゼ活性の検出」平成13年度日本水産学会春期大会講演要旨p130

Miwa, S., Mano, N., and Aranishi, F. Detection of caspase activities in cultured fish cells infected with viral deformity virus. Fish Pathology (in press)