プレスリリース

平成13年9月4日
独立行政法人水産総合研究センター
有明海貧酸素水の実態解明に前進


[要 旨]
 平成13年度行政対応特別研究「有明海の海洋環境の変化が生物生産に及ぼす影響の解明」(略称:有明生物)等の調査において、西海区水産研究所、福岡県水産海洋技術センター有明海研究所、佐賀県有明水産振興センター、長崎県総合水産試験場及び熊本県水産研究センターは5月~8月に湾央から湾奥にかけて、溶存酸素を連続的かつ定期的に観測した結果、貧酸素水の形成時期及び潮汐に伴う顕著な変動を確認した(別紙)。


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
研究担当 西海区水産研究所 企画連絡室 酒井保次、皆川 恵 TEL:095-822-8158
広報担当 研究推進部 研究情報科 広報官 梅澤かがり TEL:045-788-7529


別紙

調査の背景・目的
 溶存酸素は水生生物の生死に影響する重要な環境要因であるが、有明海での挙動については十分に知られていない。そこで、有明海において底層の溶存酸素の潮汐に伴う変動を解明するとともに、貧酸素水の出現時期など溶存酸素からみた漁場環境の実態を明らかにすることを目的に下記の調査を行った。溶存酸素の表示には、mg/l, ml/l, %の3通りがある。以下では酸素飽和度(%、用語の解説)を用いる。


調査概要
 1.底層の溶存酸素の水平分布
  調査日:平成13年5月(5月17日~28日)、6月(6月11日~15日及び6月21日~7月2日)、7月(7月19日~7月30日)。
  調査名:①浅海定線調査(各県)、②有明海漁業生産力調査(熊本県)、③沖合モニタリング調査(付図1(A~E)、有明4県共同)、④行政対応特別研究「有明生物」。
  調査海域:有明海湾央から湾奥にかけての48~58地点。
  調査内容と結果:溶存酸素計や化学的手法により、各地点の海底上0.5~1mの溶存酸素を月1~2回測定した。その結果、貧酸素水(用語の解説)は、6月までは観測されなかったが、7月下旬には有明海湾奥西部から諫早湾にかけて認められた(図1)。7月に形成される躍層が貧酸素水の発達を促していることが示唆された(図2)。

 2.溶存酸素の連続観測
  調査日:平成13年5月18日~8月5日
  調査名:行政対応特別研究「有明生物」
  調査海域:有明海湾央から湾奥部にかけての3点(付図1(St. 1及びSt.2、水深約7m)、(St. 3、水深約10m))
  調査内容と結果:海底上0.5mに記録内蔵型測器を設置し、溶存酸素、水深等を30分ないし60分おきに連続して観測した。その結果、1)溶存酸素は6月下旬より減少し始めた(図3)、2)同一地点における底層の溶存酸素の値は、潮の干満により急激な変化を示すことが把握された(図4)、3)7月下旬の躍層形成後では底層の溶存酸素は表層に比べ、著しく低いことが明らかとなった(図5)。


得られたデータの活用等
・貧酸素水が夏季に形成され、短期変動することが明らかとなったことから、底生生物への影響を調査する際の基礎資料として、あるいは漁場環境の評価指標としてその活用が期待される。
・底層の溶存酸素は表層とは異なることが明らかとなり、有明海の再生などを目的とした漁場環境のモニタリングを行う際の重要な指標として底層の観測を強化する必要がある。


[用語の解説]
貧酸素水:
魚介類の生息環境として不適当なほど水中の溶存酸素が欠乏している水で、ここではこれまでの知見をもとに、底生生物への影響を与える酸素飽和度40%以下の水とした。

躍層:水温、塩分、密度などの鉛直的な分布において、その勾配が大きい層

底層水:夏季躍層が形成されたときの躍層の直下から海底にいたるまでの層

酸素飽和度(%):
1気圧下の海水に溶解し得る酸素量は水温、塩分によって決まる。この酸素量(A)に対するそのとき溶けている酸素の量(B)の百分率、B/A×100(%)。例えば、水温25℃、塩分30psuでは、6.9mg/lが酸素飽和度100%に相当する。


図1  底層における酸素飽和度の水平分布
図2  諫早湾から大牟田沖にかけての深度別水温の時系列変化
図3  諫早湾湾口における酸素飽和度の時系列変化
図4  大牟田地先の定点における酸素飽和度の時系列変化
図5  7月下旬の表層と底層の酸素飽和度の分布
付図1 記録内蔵型測器による溶存酸素調査地点及び沖合モニタリング調査地点