プレスリリース

平成13年12月17日
独立行政法人水産総合研究センター
マイクロデータロガーによるヒメマスの回遊行動の解析


[要 旨]
 サケ科魚類が産卵のため、自分の生まれた河川に戻ってくること(母川回帰行動)はよく知られているが、母川回帰行動の機構に関しては依然として不明の点が多く残されている。中禅寺湖ではベニザケの陸封型であるヒメマスが最も重要な漁業資源であるが、湖のような比較的限られた範囲で回遊する本種は、サケの母川回帰機構を解明する研究を行う上では有利な点が多い。
 養殖研究所日光支所繁殖研究室では、中禅寺湖でヒメマス親魚にマイクロデータロガー(超小型記録装置)を装着し、沖合で放流後、河川回帰するまでの遊泳水深、経験水温を記録した結果、ヒメマスは迷うことなく、1-12日の比較的短時間のうちに沿岸河口付近に達し、河川-湖間を何回か行き来したのち、母川に遡上することが明らかになった。
 ヒメマスの母川回帰パターンが明らかになることによりサケの母川回帰行動の機構解明が進展するものと思われる。また、本装置の利用により、漁場における増養殖対象魚種の行動・生理情報を自由遊泳下において直接把握することが可能となり、増養殖技術の開発に資する知見を得ることができる。


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
研究推進部 研究情報科 広報官 梅澤かがり TEL:045-788-7529
養殖研究所 企画連絡室長 反町 稔 TEL:0599-66-1830
    日光支所長 長澤 和也 TEL:0288-55-0055
    日光支所 繁殖研究室長 北村章二 TEL:0288-55-0055


研究内容の説明

1.研究の背景
 サケ科魚類が産卵のため、自分の生まれた河川に戻ってくる母川回帰性を有することはよく知られているが、サケの母川回帰行動の機構に関しては依然として不明の点が多く残されている。これは、広大な海洋におけるサケの生態を詳細に調査するのには困難な点が多いためと考えられる。中禅寺湖ではベニザケの陸封型であるヒメマスが最も重要な漁業資源であるが、湖のような比較的限られた範囲で回遊する本種は、サケの母川回帰機構を解明する研究を行う上では有利な点が多く、格好のモデルとなりうる。
 養殖研究所日光支所繁殖研究室では、中禅寺湖におけるヒメマスの母川回帰機構を探る研究を続けてきており、その一環として、近年開発が急速に進んでいる超小型記録装置(マイクロデータロガー)を用いて母川回帰行動の解析を行った。


2.研究の成果
 母川河口に回帰した天然ヒメマス親魚に水深及び水温が記録されるマイクロデータロガー(UME200-DT,直径15mm,長さ48mm,水中重量6g)を装着し、中禅寺湖の沖合で放流後、河川回帰するまでの遊泳水深、経験水温を1秒毎に記録した。
 沖合で放流したヒメマスの回帰率は92.9%と非常に高く、迷うことなく1-12日の比較的短時間のうちに沖合から母川河口付近に達し、その後河川-湖間を何回か行き来したのち、母川に遡上することが明らかになった。雄では水深20m付近、水温10-12℃の層を遊泳し、時折水面までの上昇や深部への下降を行っていた。一方雌では雄と遊泳層が同様のものと水温20℃前後の表層を遊泳するものの2種のパターンが見られ、回帰行動に雌雄差や成熟度による差があることが示唆された。


3.今後の研究の発展
 マイクロデータロガーを用いた解析により、ヒメマスの母川回帰パターンが明らかになった。さらに多くの実験データの蓄積により、サケの母川回帰行動の機構解明が進展するものと思われる。また、本装置の利用により、漁場における増養殖対象魚種の行動・生理情報を自由遊泳下において直接把握することが可能となり、増養殖技術の開発に資する知見を得ることができる。
 詳細な定量的解析を行うには未だ例数が不十分であるため、同様な実験の例数を増やすとともに、今後は、①実験魚として一旦母川河口に回帰した魚でなく、沖合で回遊中の魚を用いる。②視覚や嗅覚を遮断した魚の回帰パターンを調べる。③成熟に関与するホルモンの血中濃度などの生理的指標と回帰パターンとの関係について解析する。④中枢活動が記録可能なテレメトリーシステムの開発により、サケが母川水を選択して遡上する際の嗅球誘起脳波等を解析する。などの実験を積み重ねることにより、サケの母川回帰行動の機構解明がさらに進むことが期待される。


備 考
 平成12年度日本水産学会春季大会ミニシンポジウムにて講演
 日本水産学会誌66(5),919-920(2000).に掲載