プレスリリース

平成14年3月15日
マダイイリドウイルス全遺伝暗号を解読 -安価な遺伝子組換えワクチン・効果の高いDNAワクチンの開発に期待-
研究内容の説明


1.研究の背景と目的
 マダイイリドウイルス(RSIV)は,数多くの海産養殖魚に感染し,大きな被害をもたらすマダイイリドウイルス病の原因ウイルスである。本病の予防対策として,ホルマリン不活化ワクチンによる防除対策が普及しつつある。しかし,不活化ワクチンの製造にはウイルスの培養が必要となるためコストがかかり,安価な不活化ワクチンの開発は難しい。
 これに代わる安価なワクチンとして,遺伝子組換えによるサブユニットワクチンの開発 (図1b)が有望である。遺伝子組換えワクチンの開発にはワクチンの有効成分である感染防御抗原の同定およびそれをコードする遺伝子の単離が必要となるが,これまでRSIVにおいてはそのどちらも実施されていなかった。そこで,RSIVに対する遺伝子組換えワクチンの開発を目指し,感染防御抗原の候補となるウイルスタンパク質の遺伝子の探索を主な目的に解析を進めてきた。

2.研究内容
 RSIVは10万塩基対以上と予想される大きなDNAをゲノムにもつウイルスである。そのゲノムDNAを抽出精製後,制限酵素で断片化してプラスミドベクターに組み込み,大腸菌を用いてゲノムライブラリーを作製した。  ライブラリー中に含まれるDNA断片の塩基配列を決定後,断片のゲノム上での位置を決定することにより,RSIVのゲノム全塩基配列の決定に取り組んだ。決定した全塩基配列の中からコンピューター解析により本ウイルスの全ての遺伝子を探索,同定し,既知の遺伝子と比較した(図1a)。
 ウイルスが細胞に感染するためには、まず細胞表面のリセプター(受容体)にウイルスがとりつく過程が必要である。そのリセプターに接着するためのウイルスの細胞接着タンパク質は,感染防御抗原の有力な候補と考えられている。
 RSIVは,ウイルスの脂質膜を破壊する作用を持つクロロホルム,エーテルといった有機溶剤で処理することで,細胞への感染性が失われるという特性が知られている。
 この特性から,RSIVは脂質膜を持ち,感染に必要な細胞接着タンパク質はこの脂質膜に組み込まれる膜タンパク質であると考えられた。  このことから,最初にトランスメンブレンドメインを持つ膜タンパク質遺伝子を同定し,この中からそのアミノ酸配列に細胞接着機能が予想される遺伝子を細胞接着タンパク質の遺伝子,すなわち感染防御抗原の有力候補の遺伝子と考えて探索した(図1b)。

3.本研究の成果
 今回112,414塩基対のRSIVゲノム全塩基配列の決定に成功し,遺伝子地図は他のイリドウイルスと同様円環状であることが明らかとなった(図2)。  ORF解析によりゲノム中に93個の遺伝子がある可能性が示された。また,既知のイリドウイルスの相同遺伝子との比較から,本ウイルスはイリドウイルス科の新属である可能性が強く示唆された。
 感染防御抗原をコードする遺伝子の探索として,同定した遺伝子の中からトランスメンブレンドメインを持つ膜タンパク質遺伝子を同定した。
 さらにこの中から,翻訳されるタンパク質のアミノ酸配列に細胞接着機能が推察される遺伝子を探索し,2つの候補遺伝子を同定した(図3)。
 ひとつはラミニンγ鎖ドメインⅢと高い相同性を持つラミニン型EGF繰り返し配列を持つ糖タンパク質をコードすると推定される遺伝子ORF291Lである。もう一つはORF407R遺伝子である。ORF407R遺伝子と相同な遺伝子は,近縁ウイルスである魚類リンホシスチス病ウイルス(FLDV),キロイリデッセントウイルス(CIV)にも見つかっており,これら3つの相同遺伝子間のアミノ酸配列において高い相同性を示す予想機能部位には,いずれも細胞接着アミノ酸配列として知られるアルギニン(R)・グリシン(G)・アスパラギン酸(G)が並んだRGD配列が存在している。これら2つの遺伝子産物のうち,前者は細胞のラミニンリセプターを介した,後者はRGD配列を利用した細胞接着タンパク質である可能性が推察された(図4)。
 なお,ウイルスがラミニン型EGF繰り返し配列の遺伝子をコードしていることはこれまで報告がなく,極めて珍しい知見である。現在,感染防御抗原遺伝子の候補として,これら遺伝子の塩基配列を特許出願中である。
 その他,既知のイリドウイルスには見られないRSIV特異的と思われる遺伝子も多数同定した。ごく最近になってイリドウイルス科では,前述のCIVを含め新たに2属2種のゲノム全塩基配列が明らかにされたが,遺伝子組成からみても本ウイルスはこれらとは全く異なり、新しい属に属するイリドウイルスであることが明らかになった。 現在さらにこれらのウイルス遺伝子と比較解析を進め,新たな知見が得られつつある。

4.今後の研究の発展
 産業面においては,RSIVの全遺伝子を同定したことにより,遺伝子組換えワクチンの開発が可能となった。今後,同定された遺伝子を用い感染防御抗原をコードする遺伝子の同定を行い,サブユニットワクチンの開発を目指す。不活化ワクチンに比べ,安価で大量の抗原が得られる遺伝子組換えワクチンのメリットを生かし,投与法の改良も含め,ワクチンの普及につなげたい。また,より有効性の高いDNAワクチンの開発も同時に期待できる(図1b)。
 学術面においては,遺伝子の機能解析により本ウイルスの感染機構(図4),細胞内増殖機構の解明に大きく寄与するものと考えられ,ワクチン以外の防除法の開発につながる可能性も考えられる。さらに,遺伝子の解析により,イリドウイルスの進化,起源についての重要な知見が得られると期待される。


備考
特許出願番号 特願2000-294991
           発明の名称  マダイイリドウイルスのウイルス中和・感染防御関連タンパク質をコードするDNA
発明者 栗田 潤(養殖研究所)
    中島員洋(養殖研究所)

用語の解説