プレスリリース

平成15年7月6日
独立行政法人 水産総合研究センター

世界で初めてシラスウナギの人工生産に成功
―ウナギの完全養殖の実現に目処がつく―

〔要 旨〕
 これまで、ウナギ養殖用種苗は100%天然のシラスウナギの採捕に頼っており、種苗供給量及び種苗価格が年により大きく変動し不安定であった。このため、ウナギの人工種苗生産技術を開発し、卵から親までの完全養殖を実現することが関係者の悲願であった。
 独立行政法人水産総合研究センター(養殖研究所)では、1998年に、ウナギの人工ふ化仔魚を全長10mmまで、翌1999年には、ふ化後250日以上飼育し、大きいものは全長30mm前後のレプトケファルス幼生まで成長させることに世界で初めて成功した。
 しかし、ウナギ養殖の種苗として使用されるシラスウナギへの変態までの壁は厚く、シラスウナギの人工生産による完全養殖の実現まであと一歩のところで足踏みしていた。
 今般、飼育方法を改良するとともに、飼料の改良を進め、民間企業と共同で開発し、特許を出願した餌を与えることにより、ふ化後230~260日以降、全長50~60mmに達したレプトケファルス幼生が随時変態を開始し、約20日間で変態を完了してシラスウナギになった。シラスウナギまでの飼育に成功したのは世界で初めてである。
 変態したシラスウナギのうち、最も大きなものは、現在、ふ化後612日を経て全長20cm を越えるウナギに成長しており、人工生産されたシラスウナギが養殖用種苗となりうることが明らかになった。
 なお、本成果は水産庁委託費、運営費交付金、農林水産技術会議の予算により実施され得られたものである。

本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
本部 研究推進部 業務企画課 広報官 TEL:045-788-7529
養殖研究所 企画連絡室 TEL:0599-66-1830


〔成果の概要〕
1.背景
 我が国のウナギ養殖業は内水面養殖業の生産金額の半分以上を占める重要な産業であるが、ウナギ養殖の種苗は100%天然のシラスウナギの採捕に頼っており、不安定なシラスウナギの採捕量が種苗供給の不安と極端な価格の変動を招き、養鰻経営を圧迫している。また、最近、野生生物取引監視団体の調査で世界的なウナギ資源の減少が指摘されており、天然のシラスウナギを大量に捕獲して利用する養鰻業は、将来、資源保護の見地から種苗供給について見直しを迫られる恐れもある。その唯一の打開策は、ウナギの人工種苗生産技術を開発し、卵から親までの完全養殖を実現することである。

2.概要
 養殖研究所では、1998年に、サメ卵凍結乾燥粉末がウナギの初期餌料として有効であることを明らかにし、人工ふ化仔魚を全長10mmまで成長させることに世界で初めて成功した。さらに、1999年には餌の改良により250日以上飼育を継続し、全長も30mmを越えるレプトケファルス幼生と呼ばれる透明なヤナギの葉のような仔魚にまで成長させることに成功した。しかし、ウナギ養殖の種苗として使用されるシラスウナギへの変態までの壁は厚く、シラスウナギの人工生産による完全養殖の実現まであと一歩のところで足踏みをしていた。

 今回、飼育装置の改良及び飼育方法の詳細な検討を行い、また、日本水産株式会社及び不二製油株式会社との共同研究によりさらなる飼料の改良を行った結果、ふ化後250日前後で全長55mm前後に達したレプトケファルス幼生が変態を開始し、約20日でシラスウナギに変態させることに成功した。変態したシラスウナギは変態後30日程度で摂餌を再開し、現在、最も大きなものは全長20cm を越えるウナギに成長しており、人工生産されたシラスウナギが養殖用種苗となりうることが明らかになった。

3.考察及び今後の展望
 本成果により、人類はウナギを卵から育てる技術を初めて手に入れ、将来完全養殖が可能となる目処がついた。同時に、この技術は天然のウナギ資源の保護に役立つと共に、謎の多いウナギの生態の完全解明にも大いに役立つものと考えられ、水産研究の歴史の中で特筆すべき、世界的な研究成果である。

なお、本研究の一部は、
・農林水産技術会議事務局による大型別枠研究「生物情報の解明と制御による新農林水産技術の開発に関する総合研究」(平6~9)、
・ 運営費交付金プロジェクト「水産生物育種の効率化基礎技術の開発」(平9~14)及び「生態系保全型増養殖システム確立のための種苗生産・放流技術の開発」(第1期:平13~15)
・平成14年度水産庁委託事業「内水面資源増養殖・管理総合対策委託事業(ウナギ種苗生産総合技術開発)」予算により実施した。


用語の説明

【プレレプトケファルス】
この時期は前葉形仔魚期ともよばれ、ふ化後、レプトケファルスに達するまでの発育段階。全長3~12mm。ただし、プレレプトケファルスとレプトケファルスの区分は様々な基準があり、天然のプレレプトケファルスの標本が少ないこともあって、一概に大きさで言い切ることは難しい。

【レプトケファルス】
ウナギ類の仔魚期の名称で、透明な柳の葉のような特徴的な形をしていることから葉形仔魚とも呼ばれる。全長12~60mm。

【シラスウナギ】
河川に遡上するウナギの稚魚で、現在のウナギ養殖は全て天然のシラスウナギを捕らえて種苗としている。全長50~60mm。

【変態】
オタマジャクシがカエルになるのと同様に、ウナギはレプトケファルスからシラスウナギへと、短期間に外部形態及び内部組織の劇的な変化がみられる。この一連の変化を変態と呼んでいる。





飼育下でのレプトケファルス幼生からのシラスウナギへの変態
ふ化後250日から270日の同一個体の連続写真。スケール=10mm



人工授精から育てられたウナギ(全長約20cm)