プレスリリース
独立行政法人水産総合研究センター
-外来魚コクチバスの繁殖抑制マニュアルの作成と親魚捕獲用小型三枚網の開発-
【 要 旨 】
近年、コクチバスはその分布域を急速に広げており、34都道府県で報告されている。コクチバスはオオクチバスと同様に魚食性が強く、ワカサギ、ヒメマス、ヤマメ、イワナ、ウグイなどを捕食し、在来の生態系に影響を与えることが知られており、その繁殖を抑制し個体数を減らす手法の開発が求められている。
このため、水産総合研究センター中央水産研究所内水面利用部の片野 修魚類生態研究室長をリーダーとする特別研究チームは、平成12年度から3年間、「外来魚コクチバスの生態学的研究及び繁殖抑制技術の開発」研究に取り組み、その成果として「湖沼におけるコクチバスの繁殖抑制マニュアル」を作成した。
なお、本研究は農林水産省の行政対応特別研究として実施した。
〔研究の成果〕
1.コクチバスを減らすためには、5~7月の産卵期に接岸する親魚を捕獲することが有効である。
2.雄親は浅場に産卵床をつくり、そこに産みつけられた卵を保護するため、雄親を除去すると卵はウグイ、コイなどの他魚にほとんど捕食されてしまう。
3.産卵床を守る雄親を効果的に捕獲する新型小型三枚網は、2時間の設置で6割の親バスを除去することができた。
4.バスの体長の4分の1の目合いの刺し網が最も選択性が高いことが明らかになり全長25~35cmのバスを効率的に捕獲するには、目合い6~9cmが適切であった。
5.各種の網具の使用とバスの卵を捕食する在来魚の放流を組み合わせることによって、コクチバスの個体数を減少させられることが湖沼での実地実験と数理学的解析によって明らかになった。
6.普及する目的で、繁殖抑制マニュアルを提示した。
独立行政法人 水産総合研究センター
研究推進部 業務企画課 広報官 梅沢かがり TEL:045-788-7529
中央水産研究所 企画連絡室長 中野 広 TEL:045-788-7601
中央水産研究所 内水面利用部 内水面利用部長 白石 學 TEL:0268-22-1200
中央水産研究所 内水面利用部 魚類生態研究室長 片野 修 TEL:0268-22-1450
〔成果の概要〕
1.背 景
日本の湖沼や河川では、オオクチバス、コクチバス、ブルーギルなどの外来魚が増加し、在来種を捕食することによって減少させている。そのために、生態系の撹乱や水産重要種への被害が報告されており、外来魚対策は大きな社会問題となっている。日本各地で外来魚の駆除が行われているが、有効な方法は見いだされていない。コクチバスは日本に移入されてから年が経っていないために、その分布も限られていたが、近年急速に増加しており、特に中部・関東・北陸・東北地方で広がっている。
2.研究の目的
コクチバスについては、日本における生態的知見が乏しく、その生態的特性と繁殖状況が不明であった。そこで、コクチバスの生態的特性と繁殖状況を明らかにし、繁殖抑制方法を開発して、その個体数を減少させる必要が生じた。独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所内水面利用部の片野 修魚類生態研究室長は、農林水産省で緊急性が高い対象について行われる行政対応特別研究の1課題「外来魚コクチバスの生態学的研究及び繁殖抑制技術の開発」についてチームを編成し、8研究室(中央水産研究所内水面利用部魚類生態研究室、漁場管理研究室、漁場環境研究室、養殖研究所日光支所繁殖研究室、水産工学研究所漁業生産工学部漁法研究室、さけ・ます資源管理センター生物環境研究室、長野県水産試験場環境部、東京大学海洋研究所資源解析部門)により3年間の研究を行った。
3.研究結果の概要
(1)繁殖抑制方法の基本方針
コクチバスの生態的特性と繁殖状況を調査した結果、本種を減少させるためには、コクチバス成魚の個体数を減少させるか、その繁殖を失敗させ、次世代の卵や幼魚を死滅させるか、のいずれかが必要である。コクチバスは湖沼において秋冬期や夏期の高温期には、深場に移動したり分散しているので、効果的に捕獲することは難しい。一方、5~7月の産卵期(水温16~20℃)には、水深1m前後の浅場に集まり、しかも産卵場所は集中してつくられるので、捕獲しやすくなる。この時期に、コクチバスの数を減らすとともに、卵の死滅によって次世代のコクチバスが生じないようにすることが必要である。従って、捕獲努力はこの時期に湖沼全体で一斉に行うことが望ましい。
(2)繁殖抑制方法の開発
①新型小型三枚網の開発
コクチバスでは、雄が径40~100cmの円形の産卵床(写真1)をつくり、そこを訪れた雌が卵を産みつける。卵はふ化するまで雄親に守られる。中央水産研究所内水面利用部漁場管理研究室の実験によると、雄を除去すると卵や仔魚は100%他の魚に捕食されて死滅したので、雄親を効果的に捕獲除去すれば、次世代のコクチバスが生じなくなると考えられる。
長野県水産試験場は、雄親が産卵床に留まり続ける習性を利用し、新型の雄親捕獲用の小型三枚網(写真2)を考案した。長さ1m程度のもので、ボートで移動しつつ産卵床の上に置いておくだけでよい。長野県の青木湖、木崎湖などでの実地試験では、2時間の設置で60%の雄親を捕獲できることが判明した(写真3)。極端に透明度の悪い湖沼を除けば、ほとんどの場所で繁殖を抑制することが可能である。また、この漁具はオオクチバスやブルーギルなどの他の有害外来魚の捕獲にも応用できる。
②他魚種による捕食の利用
湖沼に生息するウグイ、コイ、ウナギなどの魚は、コクチバスの産卵床へ侵入して、コクチバスの卵を捕食する。中央水産研究所内水面利用部魚類生態研究室の調査によると、2002年の青木湖では、雄親を除去しなくてもコクチバスの卵の80%はウグイによって捕食されていた。一方、他魚はコクチバスによって捕食されるが、コクチバスの体長の半分を超える長さの魚は、捕食されない。従って、コクチバスの繁殖期にコクチバスの産卵床が集中する地域に、その湖沼にもともといる体長20cm以上の魚を放流すれば、コクチバスの卵を効果的に減少させることができると考えられる。この方法は、水の透明度が悪く産卵床の位置が不明な場合に効果的である。放流する魚は、その湖沼に固有の遺伝的特性を持つものが望ましい。
③このほかの方法
産卵場一帯にはコクチバスが集まるので、刺し網、投網、地曳き網、釣りなどによって、親バスを捕獲することが効果的である。刺し網では、捕獲するバスの体長の四分の一の長さの目合いを用いると効果的であることが、水産工学研究所漁業生産工学部漁法研究室の調査で明らかになった。昼間にしかけるとフナなどの混獲を避けることができる。また、ミミズを餌にして、産卵床周辺で釣りをすると、雌も雄もよく釣れる。
4.考察及び今後の展望
上記の成果を「繁殖抑制マニュアル」(別添)として、とりまとめた。
1. コクチバスの繁殖期、繁殖場所を特定する。
2. 駆除
(1)産卵床を守る雄を捕獲する。
(2)産卵場周辺を移動する雌を捕獲する。
(3)他魚を利用して産卵床中の卵を捕食させる。
3.非繁殖期の対処法―刺し網、地曳き網、餌釣りなどによるバスの捕獲を推奨する。
4.在来種がバスに捕食されにくい環境を整備する。
5.バス以外の他の外来魚も捕獲する。
この繁殖抑制マニュアルによって、内水面漁連や水産試験場の協力の下にコクチバスの減少をはかり、水産資源の有効利用と生態系保全の調和をめざす。
用語解説
コクチバス 北米大陸中東部原産、原産地名スモールマウスバス。日本では1991年頃から見られるようになった外来魚。黄土色で口の後端は目の中央下にあり、成魚は全長40cm。産卵は13℃以上の水温で5~7月頃。雄が卵や仔魚を守る習性があり、非常に繁殖力が強い。清澄な湖沼や流れの緩やかな河川に生息し、冷水性の水温にも適応し、ワカサギ、ヒメマスのほか河川上流域のヤマメやアユ等への食害が懸念されているため、全国的に放流は禁止されている。

オオクチバス
北米大陸中東部~南部原産、原産地名ラージマウスバス。日本へは1925年に芦ノ湖に移入された。頭から尾にかけて黒い帯があり、口の後端は目より後、成魚は全長50cm程になる。雄が卵、仔魚を保護。魚食性が強く、他の水域への移植は強く制限されていたが、ルアー釣りの対象として人気が高いため各地に放流されてしまった。在来魚種への食害が大きいため移植についての規制は厳しい。
ブルーギル
北米大陸中東部~南部原産。1960年以降養殖用に導入された。1980年以降日本全国に分布を拡げている。えら蓋のところに青い斑点があるのが特徴。岸よりの流れがゆるく、障害物の多いところに生息し、雑食性で水生昆虫やエビ類・水草などほか、魚の卵や稚魚を好んで食べる。産卵期は6月~7月で雄が仔魚を保護する。繁殖力が強く既存の生態系に大きな影響を与えている。
(写真2)親魚捕獲用小型三枚網
産卵床
魚が卵を産む場所であり、雄によってきれいに掃除されていることが多い。コクチバスの場合、そこだけ白く輝いているので、容易に識別される。
産卵場
産卵床が集合している場所。コクチバスの産卵場は砂礫底の浅場が広がっているところに形成される。
(写真1)産卵床と産卵床に仕掛けた小型三枚網
(写真3)小型三枚網によって捕獲されたコクチバス