プレスリリース
独立行政法人水産総合研究センター
-生鮮・加工品を問わず魚の種類を簡便に判別する技術開発に目処-
【 要 旨 】
水産物については、新JAS法により名称や原産地の表示が義務化されたが、魚介類には近縁種が多く、水産加工品も種類が豊富で、輸入品も増えている。こうした製品の中には外見だけでは表示が適正かどうかの検証が困難なものもある。このため消費者が安心して商品を選択できる条件を整備し、生産者、流通業者の信頼を高めるために種判別および漁獲地域推定技術の開発が急務となっている。
そこで、(独)水産総合研究センターを中心とする研究機関は、平成14年度から、農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」により、ウナギ・カキ等魚介類の種判別、並びに各種加工品の原料・原産地推定技術開発研究を進めている。
ウナギでは、日本種とヨーロッパ種を高精度短時間(半日で96検体)で判別できる核DNA分析法を開発した。
カキについては、ミトコンドリアDNAを分析することにより、生鮮・加工品を問わず、外国産を含む18種の種判別が可能となった。
今後は開発した技術の低コスト化、迅速化を図ると共に、漁獲地域推定法の研究を加速していく予定である。これらの技術が確立されれば原料・原産地表示の検証が簡便にできるものと期待される。
独立行政法人 水産総合研究センター
研究推進部 業務企画課 広報官 梅沢かがり TEL:045-788-7529
中央水産研究所 企画連絡室長 中野 広 TEL:045-788-7601
中央水産研究所 加工流通部長 中村弘二 TEL:045-788-7662
背 景
新JAS法により、水産物については、名称や原産地表示(県名表示または原産国表示)が義務化されたが、魚介類は近縁種が多数あり、また水産加工品についても種類が豊富でかつ、様々な輸入品がある。切り身のように外見だけでは識別が非常に困難な場合も多い。
消費者が安心して商品を選択する条件を整備し、生産者、流通業者に対する信頼性を高めるために、種の判別及び漁獲地域の推定を迅速に低コストで行える技術開発が急務となっている。
成果の内容・特徴
(独)水産総合研究センターでは、平成14年度から農林水産省農林水産技術会議事務局の委託事業である「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」により、東京大学大学院農学生命科学研究科、石巻専修大学理工学部、宮城県水産研究開発センター、(財)日本冷凍食品検査協会との共同研究により、「近縁魚類等の種判別及び漁獲地域判別技術の開発」に取り組んでいる。
本研究は、遺伝子を用いた近縁魚類等の種判別技術の開発、微量成分の濃度・組成比を用いた漁獲地域推定法の開発、加工品の簡便な原料・原産地判別技術の開発の3本柱からなっている。
技術の特徴
ウナギではすでにミトコンドリアDNAを使って種判別するキットが市販されているが、なお改良すべき点が多い。
今回は、
1.高い精度で判別できる新しい技術の開発
2.DNAを切る最適な酵素の探索
3.迅速、大量、安価、安全に分析できる技術の開発
を目標としている。
水産物中の成分は生息地の水質等環境の影響を受ける。そこで、農薬等人工微量成分、微量元素を調べ、漁獲地域を推定する。
加工品は、加熱、添加物等により、魚種判別が困難になっている場合が多い。そうした要因を排除して、高度に加工された製品でも正確に種判別できる技術を開発する。
成 果
1.核ゲノムの特異的配列をPCR法により増幅し、新たに、高精度に魚種判別できる手法を開発した。本手法は、ウナギ、ウナギ加工品全てにおいて、同属近縁の日本種とヨーロッパ種の識別等が可能であることを確認した。
2.種判別を、従来より迅速に(半日で96検体分析)、安価に行えるようになった。
3.マガキを含む国内外に生息する18種類のカキ類について、ミトコンドリアDNAを、複数の制限酵素を組み合わせた多型解析によって種判別する技術を開発した。本技術は、各種加工品にも適用できることを確認した。
今後の課題及び展望
平成16年度までに以下の実現を目指す。
1.核ゲノムを用いた魚種判別法をキット化、製品化する。
2.ウナギ、カキの他にサケ・マス類、アジ・サバ類について、種を識別する遺伝子解析技術および微量多元素分析等による漁獲地域推定技術を開発する。
用語の説明
核ゲノム
細胞核に含まれている遺伝子を言う。
ミトコンドリア
細胞小器官の一つで、真核生物の細胞質中に多数分散して存在する。
ミトコンドリアDNA
ミトコンドリアに含まれる遺伝子を言う。細胞から抽出されるDNA量は核よりもミトコンドリアからの方が多い。
新JAS法の具体的な変更点
① 特定JAS規格の導入、② 品質表示基準制度の拡充の2点。
同属近縁の日本種とヨーロッパ種
ウナギは、日本を含むアジア側に分布する日本種の他に、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、アフリカに分布するものがあり、種が異なると考えられている。
カキ類
国内に分布する食用のカキには、マガキ属(Crassostrea)に属するマガキ、イワガキ、スミノエガキ、シカメガキ、オハグロガキ属(Saccostrea)に属するケガキ、イタボガキ属(Ostrea)に属するイタボガキがある。
PCR法
PCRとは、微量のDNAを短時間で大量に増やす遺伝子増幅技術を呼ぶ。
キット
分析に必要な、一組にした試薬類を指す。