プレスリリース

平成16年3月31日
水研センター中央水産研究所の組織改正に伴う「水産遺伝子解析センター」の新設について
説明・用語解説

[説明]
・ 低迷する水産業、一方でますます高まる安全・安心への意識という2つの根本的な問題を解決する先端技術の一つとして、水産生物・食品の遺伝子研究の重要性が増大している。例えば、資源管理における系群解析や魚介類の親子・種判別、ヒラメやノリ等の重要養殖対象種の育種、コイヘルペスウイルス病等の魚病診断、食品表示にかかわる原産地判別や鑑定など、水産業の生産から流通のすべての局面で、遺伝子解析を応用した技術が活用されるようになってきた(図1)。また、遺伝子関連特許の国際競争が激化しており、水産分野についても例外ではない。例えば、トラフグではゲノムの全塩基配列の解読が完了しており、これらの情報を活用した水産研究の新展開が期待されている。

・ これまで、独立行政法人水産総合研究センター(以下、「水研センター」とする。)の各研究所においては、それぞれの研究の中で水産生物の遺伝子解析等の研究を進めてきた。一方で、有明海におけるノリ不作対策として、「先端技術を活用した有明ノリ養殖業強化対策研究委託事業(図2)」の一環としてノリ育種研究を目的とした遺伝子解析を進めるため、中央水産研究所にゲノムチームを設け、必要な機器類等のインフラを集中して整備してきた。また、水研センターでは、現在、ヒラメの遺伝子解析とそれを応用した育種技術の開発等を目的として、プロジェクト研究「養殖用水産生物におけるゲノム情報を用いた育種基盤技術の開発」を推進している。

・ このような状況のなか、これまでの成果ならびに設備等を活用して水産遺伝子研究のさらなる強化を図るため、水研センター中央水産研究所の組織改正の一環として従来のゲノムチームを改組し、新たに中央水産研究所に「水産遺伝子解析センター」を設置した。「水産遺伝子解析センター」では、水産関係の遺伝子解析の中核として、各水産研究所からの要請に基づくDNA塩基配列の決定や遺伝子情報の管理などの業務を担い、水研センター全体における遺伝子研究を加速する狙いがある。

・ 一方で、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称、カルタヘナ法)」の発効(平成16年2月19日)に伴い、水研センターでは、水産分野における遺伝子組換え生物等の国境を越える移動・通過・取扱い・利用についての立ち入り検査等を行う新たな業務を担うこととなった。そこで、水研センターの体制も併せて整備し、「水産遺伝子解析センター」として養殖研究所等と共同してカルタヘナ法にかかる検査業務等に対応することとした(図3)。


[用語解説]
1.カルタヘナ法:
 「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の通称。遺伝子組換え生物等の使用に関する国際的な規制の枠組みである「カルタヘナ議定書」を日本で実施するため、遺伝子組換え生物の取り扱いについて定めた法律で、平成16年2月19日に施行された。

2.ゲノム:
 細胞の中に存在する遺伝情報の総体。そこには遺伝子と遺伝子の発現を制御する情報などが含まれている。ゲノム上には遺伝子の設計図のほか、遺伝子を管理・制御している部位が存在する。また、生物の機能維持に何らかの影響を及ぼしていると考えられる領域もかなりの割合で存在しており、これらを解析することによって生命現象のより正確な把握が可能になると考えられている。

3.「先端技術を活用した有明ノリ養殖業強化対策研究事業」:水産庁からの委託事業として実施している。

4.中央水産研究所の組織改正:
 平成16年4月1日付で実施される予定。中央水産研究所における研究業務の効率化や資源評価研究の充実等を目指している。