プレスリリース

平成16年7月29日
アサリ資源の減少要因を究明するためのプロジェクト研究に着手
[説明資料]
アサリプロジェクト


 アサリは日本人の食生活を支える重要な食材ですが、漁獲量の減少が全国的に著しく、2001年の漁獲量は約3万トンとなり、1980年代前半の約16万トンの5分の1以下まで落ち込んでいます(図1)。しかし、その原因はまだ不明です。アサリは地先海域の資源であったことや、水産業のうえで大きな付加価値をもつ水産物ではなかったことも影響したのか、各地方自治体が連携をとりつつ、複数の機関が参画して大規模に行うプロジェクト研究等も行われていない状況でした。この様な背景から、2002年3月に全国水産試験場長会から水産庁と独立行政法人水産総合研究センター(以下、「水研センター」とする。)に対して、「アサリ研究に関する全国的な連絡会議の設置及び運営」の要望があり、水産庁は水研センターと協力して2003年8月にアサリ資源全国協議会を設立しました。

 アサリ資源の減少要因についてはまだ不明な点が多く、その原因究明が緊急の課題となっています(別添資料1)。アサリ資源全国協議会では、アサリ漁業を巡る状況の整理・検討を行った結果、アサリ稚貝の発生条件と成長条件を兼ね備えた漁場の減少がアサリ資源減少の大きな要因の一つではないかとの指摘がなされました。なかでも殻長数百ミクロンから5mm程度までの微小稚貝の挙動については不明な点が多く残されていることから、微小稚貝を有効利用するとともに、好適な漁場の造成・維持管理手法の開発を目的に、各地方自治体が相互に連携をとりつつ調査・研究が推進できるように、同協議会ブロック分科会を通じて各都道府県より調査・研究課題を募集し、千葉県、静岡県、愛知県、三重県、福岡県の5県が水産庁の委託事業(水産基盤整備事業)による調査を本年度より開始しました。水研センターでは、これらの調査・研究事業の推進する上で必要となる稚貝期の生態特性を解明し、効果的な漁場造成ならびに維持管理手法を実現するために、プロジェクト研究を開始しました(別添資料2)。

 アサリを含め海洋生物の多くは、発生初期、すなわち卵やふ化後の幼生や幼体(アサリでは稚貝)の死亡率が高く、この時の生き残りの良否がその世代の資源量を決定する事が知られています。しかし、アサリの発生初期の生態はほとんど不明です。浮遊幼生については、近年、水研センター瀬戸内海区水産研究所によって開発された免疫抗体注1)を用いた同定法が広く利用されるようになったことから(図2)、生態的な知見が飛躍的に蓄積されるようになりました。しかし、海底面に着底したばかりの数百ミクロンの微小稚貝(写真1)については、砂中から拾い出して他の二枚貝類の稚貝と区別する事が困難であったため、分布・移動、成長、食性などに関する基本的な生態についてはほとんど解明されず、この事がアサリ資源の減少要因の解明を困難にしていました。

 水研センター瀬戸内海区水産研究所では、昨年度から免疫抗体を用いた稚貝定量法の開発に着手し、野外調査への適用に目処がつきました(図3)。そこで、同センター中央水産研究所と瀬戸内海区水産研究所が共同で、稚貝定量技術を用いたプロジェクト研究「アサリの加入量決定機構の解明」を3年間の計画で本年度に立ち上げる事としました。このプロジェクト研究は、漁場で得られた試料に稚貝定量法を適用し、稚貝の分布・移動、死亡率の推定等を行うとともに、貝殻による成長履歴の解明や安定同位体比測定注2)等による食性の解明、餌料の候補となる珪藻類の分布等から生息環境の評価などを行います(別添資料3)。


注1)免疫抗体:
 免疫反応において、抗原の刺激により生体内に作られた抗原と特異的に結合するタンパク質を総称して抗体という。アサリの組織タンパク質も抗原となることから、マウスやラットにアサリタンパク質に対する抗体を作らせ、サンプル中のアサリタンパク質と反応させて定量することができる。抗原の検出に、その抗原に対する抗体に蛍光色素を標識したものを用いる方法を蛍光抗体法と呼び広く利用されている。

注2)安定同位体比:
 自然界には12C(炭素12)や13C(炭素13)のように、同一元素でありながら質量の異なる元素が存在し、これを安定同位体という。同位体は化学的な性質は似ているが、質量数が異なるため、物理化学、生化学過程において同位体を含む分子の挙動に違いが生じる。一般に、植物が光合成を行う時に炭素同位体の分別がおこり、陸上植物、プランクトン、海藻等はそれぞれ異なった炭素同位体の比率を持つことになる。また、これらの植物を餌料とする動物は植物の同位体比を受け継ぐ。そして、同位体比は食物段階によらず、高次の動物においても食物連鎖の出発点となる植物の炭素安定同位体比を反映した値を持つ。このような特性から、動物の体の炭素安定同位体比を分析することによって餌料を推定することが可能となる。