プレスリリース

平成16年10月6日
仔稚魚期の感染防御機構(病原体から身を守る仕組み)を究明するためのプロジェクト研究に着手

仔稚魚期疾病(しちぎょきしっぺい)プロジェクト

[説明資料]
 最近、水産分野でも病気(疾病:しっぺい)について予防対策が普及しつつあります。たとえば、若魚や成魚については、病気の種類は限られていますが、ワクチンによる病気の予防が行われ、経営の安定に寄与しています(参考資料1:市販ワクチン一覧)。
 しかし、若魚になるまでのより未熟な小さい魚(仔稚魚:しちぎょ)については、養殖用、放流用を問わず、ひとたび病気が発生すると急激に大量の魚が死亡します。多くの場合、治療対策は間に合わず、種苗の破棄、当該施設の消毒が避けられません。このように、仔稚魚期において病気の発生は、経済的な損失が大きいとともに、計画的な生産を行う際の大きな阻害要因となっています(参考資料2:仔稚魚期の疾病被害の推移)。さらに、食の安全・安心の観点からも、増養殖魚について、仔稚魚期を含むあらゆる生産段階で一貫して安全性を確保する必要があります。

 このように、仔稚魚期についても若魚、成魚と同様に、治療中心の魚病対策を予防中心に切り替えていく必要があります。そのためには、予防対策の基盤となる仔稚魚の感染防御機構(仔稚魚が持っている病原体から身を守る仕組み)を解明することが不可欠です。そこで、水産総合研究センターでは、この仔稚魚期の防御機構を探索することを目的として、新規交付金プロジェクト研究「仔稚魚期の感染防御機構に関する研究」を、今年度から3年計画で開始しました。仔稚魚期の感染防御機構は、これまでほとんど研究が進んでいない分野ですので、本課題では今後の研究の展開を図るための糸口を探索します。

 仔稚魚に特有の病気がある一方で、成魚の病気が必ずしも仔稚魚期には発生しないことが知られています。このことから、仔稚魚の感染防除機構は、成魚の免疫機構とは異なることが予想されます。また、ほ乳類の新生児に比べますと、魚類の仔魚は非常に未熟な状態で生まれてきますので、仔稚魚の感染防除機構は、研究が進んでいる新生児の免疫機構とも大きく異なることが予想されます。さらに、仔魚は微小な上に、実験材料として使用できる期間が短かったため、研究に十分な数の材料を確保することが困難でした。これらの理由から、これまで研究はほとんど進んでおらず、仔稚魚の感染防御機構の大部分は不明なままです。ところが最近、トラフグ、ゼブラフィッシュ、メダカ等の魚類で遺伝子解析の研究が急速に進み、ほ乳類に引けを取らない多種類の遺伝子が発見されました。さらに、種苗生産の技術開発を行ってきた日本栽培漁業協会が昨年10月1日に水産総合研究センターと統合されたことから、魚の生理・病理学についての豊富な基礎知見と優れた飼育管理技術が整い、さらには十分な実験材料も利用可能となりました。このような状況から、仔稚魚の感染防御機構についての研究を開始する諸条件が整ったと考えました。


研究内容
(1)病原体にさらされた仔稚魚の生体反応の検討
 実験的に仔稚魚を病原体に感染させて、仔稚魚が病原体に対してどのような反応を示すのか病理学的に解析します。
(2)仔稚魚期の感染防御関連遺伝子の探索
 分子生物学的手法を用いて、これまでに発見されている、あるいは、現在発見されつつある生体防御に関連する遺伝子群の中から、仔稚魚期の感染防御機構において重要な働きを持つ遺伝子を探索します。

予定実施期間
 平成16-18年度(3年間を予定)
実施機関名
 水産総合研究センター(養殖研究所病害防除部、上浦栽培漁業センター)、福山大学(生命工学部)

参考資料1 現在日本で市販されている水産用ワクチン
 「あゆのビブリオ病不活化ワクチン」
 「さけ科魚類のビブリオ病不活化ワクチン」2種混合ワクチン
 「ぶり(またはぶり属魚類)のα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン」
 「イリドウイルス感染症不活化ワクチン」対象魚種はマダイ、ブリ属魚類、シマアジ
 「ぶりのα溶血性レンサ球菌症およびビブリオ病不活化ワクチン」2種混合ワクチン
 「ぶり属魚類のイリドウイルス感染症およびα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン」2種混合ワクチン
 「ぶりのイリドウイルス感染症、ビブリオ病およびα溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン」3種混合ワクチン


参考資料2 仔稚魚期の疾病被害の推移

発生率=(疾病が発生した種苗生産機関数)/(全種苗生産機関数)