プレスリリース

平成16年12月27日
独立行政法人水産総合研究センター
国立大学法人 東京海洋大学
国際シンポジウム「コイヘルペスウイルス感染症の現状と防疫対策」の開催結果について
(シンポジウム概要、用語解説)

シンポジウム概要

1.ヨーロッパの情勢
 KHV病はオーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、スイス及び英国において、主にニシキゴイに発生しており、ドイツ及び英国等では食用コイにも発生が見られています(ピーター デクソン:環境漁業養殖科学センター、英国)。
 ヨーロッパにおけるKHVの急激な伝播は世界的なコイの流通に法的規制がないことや報告すべき病気にリストアップさえていないことが大原因の一つと考えられ、観察によれば、KHVから回復したニシキゴイや食用コイはウイルス伝播者(キャリアー)として働き、非感染のニシキゴイや食用コイへの伝染源となっていることが明らかでした(マンソー エル-マボウリ:ミュンヘン大学、ドイツ)。
 一方、イスラエルからは、必ずしもイスラエルがKHVの初発地あるいは感染源ではないことの主張がありました(ヘルブ ブレコビュー:エルサレムヘブライ大学、イスラエル)。
 各国とも、KHV病の診断には、PCR法を用いています。イスラエルからは高い検出感度が得られるTK遺伝子を基にしたPCR法の紹介がありましたが、この方法によってもキャリヤーの検出は困難との報告がありました。また、英国からは血清中のKHVに対する抗体の検出、KHVゲノムの解析等を進めているとの報告がありました。

2.東南アジアの情勢
 東南アジアにおいては、インドネシア、台湾及び日本での発生が報告されており、マレーシアにもKHV病が存在するとの情報が紹介されました(長澤和也:東南アジア漁業開発センター)。
 インドネシアでのKHV病の初発に関しては、輸入したニシキゴイから感染したもので、インドネシア国内の他の島々への本格的な拡大を防ぐため、インドネシア政府は大臣令を発し、ジャワ島とバリ島を本病の隔離地域とし、両島から他の島々へのニシキゴイとマゴイの移動を禁止し、本病の検疫を行うこととし、ニシキゴイとマゴイの輸入は、本病がない国からのみ許可されたとの報告がありました(アグス スナルト:魚病研究所、インドネシア)。

3.我が国で得られた知見
 日本、米国、イスラエルからのKHV株の遺伝子を比較した結果では、推定されるアミノ酸配列の相同性は99%以上で、3株は非常に似ていました。また、既知のヘルペスウイルスとの類似性が少なく、KHVについては新たなグループに分類する必要があるとの報告がありました(青木 宙:東京海洋大学)。
 自然発症KHV病罹患コイ(インドネシア、茨城県、青森県、栃木県)を病理組織学的観察を行った結果、鰓の病変が最も顕著であり、ついで心臓の病変が高頻度に観察されました。心臓の病変がウイルス感染による直接的な病変であるかは不明ですが、本病における急激な大量死との関連が示唆されています(和田新平:日本獣医畜産大学)。
 KHV感染耐過コイ及びKHV非感染コイ由来の稚魚を用い、KHV感染実験を行った結果、KHV感染耐過魚由来の稚魚の生残率が高かったものの、この理由については明らかではありませんが、日本にKHVに感受性が低いコイが存在するものと考えられました。アユ、キンギョ、ウグイがこの病気に感染しないこと、また、感染源とならないことも示されました。マウスにも感染はありませんでした(福田穎穂:東京海洋大学)。

4.独立行政法人水産総合研究センターの取り組み
 KHV病が「特定疾病」に指定される半年以上前から、水産総合研究センター養殖研究所病害防除部ではKHV病の診断技術を導入し、検査体制を整えました。KHV病が発生以来、2003年には87事例で529検体、2004年には11月末までに935事例で1830検体の検査を実施しています。KHVの3箇所の遺伝子の配列を調べたところ、日本で検出されたKHVに違いはありませんでした。また、インドネシアおよび台湾のKHVとも違いはみられませんでした。
 病害防除部では、KHVに関連する研究の一つとして、従来のKHV診断法であるPCR法(Gray et al. (2002)の方法)を改良して、非特異反応を軽減して診断精度を高めるとともに、診断に要する時間を短縮しました。また、PCR診断に使用する材料として鰓、腎臓及び鰭が最も適していることを明らかにしました。このような早急に必要とされる技術開発の他、農林水産技術会議の公募型研究である先端技術を活用した農林水産研究高度化事業(全国研究領域設定型研究)予算により、平成16年度から3カ年計画で「コイヘルペスウイルス病の診断・防除技術の開発」を開始したところです。当該研究では、水産総合研究センター養殖研究所を中核として、魚病研究に実績のある我が国の主要な大学及び民間企業の他、国際機関(東南アジア漁業開発センター)の7機関が参画し、①KHV病防除の基礎となる病理学及び疫学的検討。②新たなKHV病診断・KHV検出法の開発。③KHVの消毒技術やワクチンによる予防技術の開発及び人為的治療技術の検討。の3つの課題に取り組んでいます。



用語解説
 KHV:koi herpesvirusコイヘルペスウイルスの略。
 PCR法:Polymerase chain reactionの略。一本鎖のDNAからは,それと対を為すもう一本のDNAをポリメラーゼという酵素によって合成することができる。これを利用してDNA合成を何度も繰り返すことにより,特定のDNA領域を増幅する方法。
 TK遺伝子:thymidine kinase(TK:チミジンキナーゼ)というDNA合成に関わる酵素を暗号化している遺伝子。
 KHV感染耐過:KHV病が発生時に感染はしているものの、生残すること。