プレスリリース

平成17年2月3日
ハモの自然産卵による大量採卵に成功 -レプトケファルス型魚類の種苗生産技術開発に弾み-
(説明資料)

1.はじめに
 ハモ(写真1)は関西で人気があり,京都では伝統的食文化を支える食材です。「祇園ばやし」と「ハモ料理」がないと夏はやって来ないと言われるぐらい大切な魚で、600g~1㎏のものが主として利用されます。特に京都で珍重されるのは、ハモは生命力が強く,水がなくても充分な湿り気があれば24時間以上は生きており,輸送技術の未熟だった昔でも,ハモだけは京都まで生きたまま輸送可能だったことによるようです。
 ハモの漁獲量は,昭和30年代には東シナ海における以西底曳網漁業を中心に,全国で3万トンに達しました(図1)。しかし,昭和40年代以降から以西底曳網漁業の衰退とともに漁獲量は減少し,平成8年にはわずか2千トンとなりました。現在の主漁場は瀬戸内海で,年間2~3千トンが漁獲されています。
 ハモは,ウナギやアナゴと同様に,柳の葉のような形のレプトケファルス*と呼ばれる特異な幼生期を持つことが知られています。このレプトケファルス幼生期を持つ魚類(レプトケファルス型魚類)の仔魚飼育は困難ですが,ウナギでは一昨年養殖研究所において,ふ化仔魚からシラスウナギ(親と同じ形)までの飼育に世界で初めて成功しました。
 水産総合研究センター志布志栽培漁業センターでは,レプトケファルス型魚類の種苗を生産する技術を開発中ですが,その対象種としてハモを取り上げ,平成13年度から親魚養成技術開発を開始しました。しかし初年度には,親魚の飼育方法,産卵期の雌雄比や大きさ,寄生虫の問題等があり,10万粒単位の採卵しかできませんでした。しかし,これらの問題に対する対策を行い,採卵試験に取り組んだところ徐々に採卵数が増加し,本年は総採卵数が1,400万粒を超える大量採卵に成功しました(写真2)。以下に,大量採卵を実現するために行った技術開発の概要を報告します。


2.技術開発の概要(改善点)
(1) 成熟状況の把握
 産卵水槽に収容する時期はいつが良いのかを知るために,まず,天然のハモの成熟状況を調査しました。その結果,ハモは6月には成熟期に達し,7月に産卵の盛期があることが分かりました。成熟期に飼育環境を変化させると,ストレスによる成熟の停止に繋がるため,産卵水槽への収容は5月頃に行うことにしました。なお,産卵水槽は,正方形で容量が150~300 klのコンクリート水槽を用い,飼育海水は砂でろ過し,水温は自然水温としました。
(2) 餌のビタミン強化
 親魚の餌料として冷凍のサバ,アジ,イカの切り身を与えましたが,ビタミン不足を補うために総合ビタミン剤を加えるようにしました。ビタミン剤はゼラチンカプセルに入れ,餌の切り身中に挿入する方法で与え,親魚に確実にビタミンが取り込まれるように工夫しました。給餌は週に2~3回で,ハモは夜行性であることから夕方に行いました。給餌量は総体重の1%程度を目安にし,適宜調整しました。
(3) 寄生虫の防除対策
ハモを陸上水槽で飼育すると,寄生虫のネオベネデニア*が体表,特に頭部に多く寄生します。寄生によりハモの順調な成熟や産卵が阻害され,採卵成績に大きな影響を与えると考えられています。ネオベネデニアの駆虫方法は,ブリなどで用いられている淡水浴という方法を用い,淡水にハモを5~10分間浸漬して駆虫しました。産卵前から寄生状況を観察し,定期的に淡水浴を行って寄生の少ない状況下で成熟・産卵させた結果,産卵期間中に寄生虫による死亡や衰弱は見られず,順調な成熟と産卵が得られるようになりました。
(4) 雌雄の大きさと性比の調整
 ハモは雌雄で大きさに差があり,雌は体重1㎏を超える大型になりますが,雄は体重1㎏以下がほとんどです。この雌雄間の大きさの差が産卵に影響すると考えられたため,産卵水槽ごとに大きさを揃えて収容しました。また,これまでの試験では,雄の収容比率を増やすと産卵量が増える傾向が認められたことから,本年は雌雄比が2:3の割合になるようにしました。


3.採卵結果
 これまでの採卵結果を図2に示しました。試験を始めた平成13年度は,218尾の雌から37万粒しか採卵できませんでした。その原因として,親魚が陸上水槽に十分に慣れていなかったこと,雌雄比が2:1と適性でなかったことが考えられました。平成14,15年度は,雌雄比1:1および2:3で採卵を試みた結果,687万粒および734万粒を採卵できました。しかし,ネオベネデニアの防除対策が不十分で,産卵試験中に衰弱する個体や死亡する個体が認められました。
 このような経緯を踏まえ,本年は雌雄比を2:3とし,ネオベネデニアを徹底的に駆除することに加え,雌雄間および同性間の体長差をできるだけなくしました(表1)。その結果,雌141尾,雄225尾を供試して,延べ60回,合計1,443万粒の採卵に成功しました。雌1尾当りの採卵量も,これまでの3~4万粒から10万粒まで向上し(図2),ハモの種苗生産技術開発に向けて卵を安定的に確保することが可能となりました。


4.今後の展開
 卵の安定確保は可能となりましたが,まだまだ課題は残されています。
 第一に,産卵に関与しない雌が依然として多いと推測されることです。これまでの知見からハモの抱卵数*は最低でも18万粒であり,本年度は雌の尾数から推測すると少なくとも2,500万粒の採卵量が期待されました。しかし, 1,400万粒という採卵結果から,相当数の雌が産卵していないと考えられました。全ての雌が産卵できるよう、さらに飼育条件や雌雄比などの検討が必要です。
 第二に,良質卵が得られる期間が短いことです。ハモの産卵期は,おおむね6月中旬から10月上旬までですが,産卵期後半の卵質は悪く,良質な受精卵が得られるのは6~7月の1.5カ月間に限られます。仔魚の飼育試験を繰り返して行うためには卵の供給期間をできるだけ長くすることが有効で,そのためにはホルモン投与や環境条件の制御による産卵促進技術の開発も検討する必要があります。
 今後,このような課題について試験を重ね,より長い期間,より良い卵を,より安定して採卵できる技術の開発に努め,仔魚の飼育技術の開発に結び付けたいと考えています。


用語の説明
【レプトケファルス】
 「小さな頭」という意味。葉形仔魚とも言い,柳葉のような形態をしたウナギ目,カライワシ目,ソコギス目に分類される魚の仔魚の総称。

【ネオベネデニア】
 カプサラ科,ベネデニア亜科に属する単生類で学名Neobenedenia girellae。外来寄生虫で宿主特異性が弱く,ハタ類,カンパチ,シマアジ,ヒラメ,マダイなど多くの魚種に寄生する。

【抱卵数】
 雌1個体が卵巣に形成する卵の数。