プレスリリース
平成17年2月9日アブラタラバガニは実存するのか? -DNA分析によるタラバガニ類の種判別-
1.背景と目的
北海道で漁獲されるカニには、タラバガニ類、クモガニ類、ケガニなどがあり、すべて水産及び観光資源として重要である。このうち、タラバガニ類のタラバガニとアブラガニは外部形態による種判別が難しく、資源量調査の際に正確な現存量推定の妨げになっている。また、カニは近縁種間の交雑種が存在するが、どのカニの雄と雌が交雑するのか分かっていない。このため、種を正確に判断する客観的な基準が必要である。また、これらのカニは単価が高いカニとして売られる事が多く、実際に平成16年7月にアブラガニをタラバガニとして販売する業者があり、社会的な問題となっている。近年、新JAS法の施行や食に対する安全性意識の高まり等を背景に、魚介類等の種判別や原産地確認の必要性が高まっており、DNAを用いた研究が盛んに行われている。そこで、本研究では、タラバガニ類2種のDNAによる種判別法を確立することを目的とした。
2.手法
2004年5月にオホーツク海で採集し冷凍したアブラガニと近接の量販店で購入した茹でたタラバガニをサンプルとした。100mg程度の筋肉片からDNA抽出キットを用いて粗DNAを抽出し、既報のプライマーを用いて核DNAの18S rDNAから28S rDNA領域(以下、18-28S rDNA領域)をPCR法で増幅した。また、DNAデータベース上から同種又は近縁種の塩基配列を基にプライマーを設計し、28S rDNA領域をPCR法で増幅した。増幅産物をTAクローニングし、塩基配列を決定した。
3.具体的データ
タラバガニは茹でた後、約1日経ったものであったが、分析を行うのに十分な量の粗DNAを抽出することが出来た。アブラガニもDNA抽出キットから分析を行うのに十分な粗DNAを得ることができた。タラバガニとアブラガニの18-28S rDNAと28S rDNA領域の塩基配列を決定した。タラバガニ類2種の塩基配列の違いから種判別が可能であることが分かった。また、塩基配列情報からAPLP法により種判別が可能であるか検討したところ、28S rDNA領域でAPLP法による増幅産物の大きさが種ごとに異なり(図2)種判別が可能であると考えられた。甲羅中心の突起が小さいものも含めて5本や6本のカニがあり(図1)、アブラガニとタラバガニのハイブリッド(アブラタラバガニ?)ではないかと思われたが(ハイブリッドの場合、タラバガニとアブラガニのバンドが2本見られる)、本手法を試みたところアブラガニであった。インターネットでタラバガニとアブラガニの見分け方と検索すると、甲羅中心の突起の数で種判別が可能であると書かれているが、これだけでは不十分なようである。逆に5本の突起があるタラバガニもいる。
4.考察及び今後の展望
本手法によりタラバガニ類の客観的な種判別が可能になり、今後調査で採集されたカニの種判別やカニのゾエアなどの稚ガニの種判別へ応用が可能であると考えられる。また、ハイブリッドなどの判別にも可能であると思われる。本手法は茹でたカニについても可能であったので、食品表示の検査にも応用が可能である。
5.補足
中央水産研究所ではmtDNA(ミトコンドリアDNA)を用いた種判別法を開発している。mtDNAは母系遺伝すると言われているので、ハイブリッドが見つかった場合、核DNAの手法とあわせると、どのカニの雄とどのカニの雌の交雑種であると言うところまで分かる。
【用語説明】
タラバガニとアブラガニ
両種ともタラバガニ科タラバガニ属に属し、外見もよく似ている。カニと名前がついているが、ヤドカリの仲間である。タラバガニはタラの漁場で多く獲れることから、アブラガニはタラバガニに比べトゲが少なく油を塗ったようになっていることから、その名前が付いたと言われている。タラバガニは北極海、ベーリング海、北太平洋、オホーツク海の水深30-360mに分布する。アブラガニは更に深いところにも分布する。タラバガニは市場価値が高いため、アブラガニをタラバガニとして販売する業者があり問題となっている。
APLP法
APLPとはAmplified product length polymorphismの略で、ここでは種特異的な塩基が3’末端にくるようにプライマーを設計し、マルチプレックスPCR法で増幅させ、鎖長の違いによって種(又は型)を識別する方法である。
【解説用の図・表など】
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A):アブラガニ甲羅中央の突起は4本、B):アブラガニ甲羅中央の突起は5本?
C):アブラガニ甲羅の中央の突起は6本?、D):茹でたタラバガニ甲羅中央の突起は6本

図2.核DNAの28S rDNA領域のAPLP法によるタラバガニとアブラガニの種判別結果例
上図:APLP法に用いた領域、下図:APLP法による増幅産物の電気泳動像