プレスリリース

平成17年3月15日
独立行政法人水産総合研究センター
タイマイの親ガメに名前が付きました


【要旨】
 タイマイはウミガメの仲間で一番綺麗な甲羅を有している中型のカメです。このカメは水産庁の「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」で絶滅が危惧されている希少生物で、その生息数は減少し危機的な状況にあるとされています。タイマイの資源を増大させるためには保護も必要ですが、人為的に繁殖させ、積極的に資源の回復を図る必要があることから、独立行政法人水産総合研究センター八重山栽培漁業センターでは、タイマイの増養殖技術の開発に取り組んでいます。
 八重山栽培漁業センターでは、平成16年度に2頭のタイマイ親ガメが産卵し、合計で894個の卵を産みました。国内で捕獲したタイマイを長期養成し、産卵に成功したのは世界で初めての事例です。これらの採卵した卵からは、合計309頭の稚ガメが元気にふ化しました。
 平成16年度、繁殖試験に用いたタイマイの親ガメは雌3頭と雄1頭です。今回の産卵・ふ化の成功を記念して、石垣市民の皆様方からこの4頭の親ガメに名前をつけていただきたいと考え、石垣市の広報「いしがき」の12月、1月号の誌上で名前の募集をしたところ、2月10日の締め切りまでに合計85通の応募がありました。
 応募の中から親ガメの名前を選考するために、石垣市水産課と八重山栽培漁業センターの両機関で「名前の選考委員会」を設けて4頭の名前を選考しました(写真1~4)。親ガメに名前が付いたことを記念して3月16日にタイマイ親ガメの命名式を行い、4名の名付け親の方に感謝状と記念品の授与を行います。
 併せて当日は、小学生が3歳のタイマイを放流する体験学習と、昨年12月に山口県下関市で保護され、八重山栽培漁業センターで養生したタイマイの放流(別紙参照)も行います。


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
本部 総合企画部 広報課 広報官 飯田 遥 TEL:045-227-2624
八重山栽培漁業センター 担当:與世田兼三・清水智仁 TEL:09808-8-2136


写真1 雄ガメ:オリオン
名付け親:石黒愛

写真2 雌ガメA(昨年5回産卵):恵海(えみ)
名付け親:大西さつき

写真3 雌ガメB(昨年2回産卵):夏海(なつみ)
名付け親:喜屋武優華

写真4 雌ガメC(昨年産卵なし):希望(のぞみ)
名付け親:田中和子


保護されたタイマイの放流について
-希少野生生物種タイマイ救出のための連携作戦その後-


【これまでの経緯】
 昨年の11月21日、山口県の小型定置網に希少野生生物種に指定されている、タイマイが入網し、地元関係者の取計らいで、下関市立水族館に緊急保護されました。
 下関市立水族館では放流の検討を行いましたが、周辺の海水温が低く、このカメが生存するには難しいと判断し、水産総合研究センターに保護の要請がまいりました。当センターでは、タイマイの養成および放流技術の開発を行っている八重山栽培漁業センターで受け入れ、養生させた上で放流することとしました。そのために、環境省への希少野生動植物種譲渡し等および希少野生動植物種譲受け等の許可の手続きを行い、12月14日に下関から石垣島まで陸路と空路でのタイマイ救出のための連携作戦を実施しました。
 タイマイは無事に八重山栽培漁業センターへ到着し、輸送後7日程度は餌を食べませんでしたが、その後摂餌が回復しました。現在は1回500~800g程度の餌を週に3回食べています。当センターへ到着した時は体重が5.4kgでしたが、輸送後約3ヶ月を経過した現在では体重6.0kgを超えています。
 これらのことから、タイマイは充分に体力が回復したと考えられるため、今回天然の海へ放流することにしました。


【なぜタイマイを石垣島で放流するのか】
 タイマイはウミガメ科の中でも特に熱帯域にその分布が見られるウミガメです。タイマイが産卵のための営巣を行う場所は、北緯25度から南緯35度の低緯度地域に分布が見られます。タイマイの主要産卵場といわれている地域は西インド諸島、(大西洋)、モルディブ~チャゴス、セイシェル~モザンビーク(インド洋)、インドネシア~オーストラリア北部の島嶼部等で、南西諸島(先島諸島)はタイマイの産卵場としては北限に近い位置にあると思われます。また、南西諸島でも毎年産卵が確認されているのは八重山諸島だけです。これは、当センターがタイマイの増殖事業を担当することになった理由のひとつでもあります。先述したように、捕獲された当時の下関では既に水温が低く、再放流には不適な場所でした。恐らく、本州沿岸で見られるタイマイは海流に乗って南方よりやってきた個体と思われます。そこで、一年を通じてタイマイが生息している八重山の海で放流することになりました。