プレスリリース

平成17年4月20日
アユの生態、遡上量予測技術および冷水病の実用的ワクチン開発に関する研究の実施が決定
[説明資料]

1.沿岸域におけるアユの生態特性の解明と遡上量予測技術の開発

研究の背景
 アユの漁獲量は1991年を境に減少傾向が続いています(参考資料1)。この主な原因として海より遡上する稚アユの量(遡上量)の低下が指摘されています。特に日本海側では、2003年以降は広範囲にわたって遡上量が激減し、アユ資源の枯渇が危惧されています。遡上量の減少は、川から海へ流れ下った生まれたばかりの稚アユ(仔魚)のその後の生き残りの状況が関与しているものと考えられています。しかし、沿岸における稚アユの生態については未解明な部分が多く、特に生き残りの成否を決める要因(減耗要因)の特定については、従来の稚アユの採捕による生態調査に加え、遺伝子解析など先端技術を活用した研究が必要です。この研究では稚アユの遡上量を考慮した漁場管理(放流場所や放流尾数の選定等)などに資する目的で、稚アユの生態や減耗要因の解明、遡上量の予測技術の開発の3つの研究課題に取り組みます。

研究内容(参考資料2
(1)沿岸域におけるアユの生態特性の解明
 沿岸における稚アユの減少の様相は海域によって大きく異なり、冬季の海洋条件の違いが大きく関わっているものと考えられています。そこで、環境条件が大きく異なる日本海側と太平洋側において野外調査を行い、沿岸域の環境条件とアユの生態特性および遡上量の関係について解析します。
(2)生残に必須な遺伝子と元素解析によるアユ減耗要因の解明
 稚アユの生き残りには、海水や淡水に順応するためのイオンの調節(用語解説)などの生理的な活性や栄養状態が関係しているものと考えられています。そのため、生き残りに深く関わる生理的な活性を制御する遺伝子を把握する他、安定同位体分析(用語解説)などにより栄養状態や主な餌生物を明らかにします。さらに,異なる地域に生息するアユの仔魚の水温・塩分耐性を調べることによって、海域ごとに稚アユの減少の様相が異なる原因について究明していきます。
(3)アユ遡上量予測技術の開発
 稚アユの遡上量を予測するためには、沿岸域における稚アユの減少過程を明らかにすることが必要です。そこで、アユが川で産まれ海へ流れ下ってから、翌年、川へ遡上するまでの間の個体数の変化を、発育段階を追って明らかにします。さらに、本課題より得られた知見を総合し、各年のアユ遡上量を予測する手法を開発します。

成果の活用
 稚アユの遡上量を考慮し、種苗の放流場所や放流尾数を調整するなど、適切な漁場管理や効率的な漁場経営が可能となります。

研究実施期間
 平成17~19年度

研究実施機関
 水産総合研究センター中央水産研究所、山形県水産試験場、新潟県内水面水産試験場、富山県水産試験場、福井県内水面研究センター、和歌山県農林水産総合技術センター内水面研究所、徳島県立農林水産総合技術センター水産研究所、東京大学海洋研究所

[用語説明]
・イオン調節
 魚が生きていくためには体内のイオン濃度を一定に保つ必要があります。魚は体内のイオンの取り込みや体外への排出によりこれを行っています。
・安定同位体分析
 自然界に存在する同じ元素であるが、質量数の異なる原子を安定同位体と呼ぶ。さまざま原子の安定同位体組成は、川や海などの場所や、生物の種類によって異なるため、生息場所の特定や食物連鎖網の解析などに利用されている。


2.アユ冷水病の実用的ワクチン開発

研究の背景
 アユの細菌性冷水病(以下、冷水病と略記)は、アユにおいて最も被害の大きい病気であり、本病の対策が内水面漁業において大きな課題となっています。アユ冷水病は、1987年に徳島県のアユ養殖場で初めて確認されました。その後、各地の河川での発生報告も増加し、2003年には30都道府県、全養殖場の約三分の一で冷水病の発生が確認されています。アユの養殖生産量は冷水病の蔓延もあって、1991年をピークに減少しています(参考資料3)。このため、平成13年度(2001年度)からは、国、都道府県、全国内水面漁業協同組合連合会等で「アユ冷水病対策協議会」を組織し、研究・調査および対策・指導の両面から本病の防除に取り組んできました。
 予防対策であるワクチンの開発については、「アユ冷水病対策協議会」の部会の一つである調査・研究部会で、経口ワクチン(ワクチンをえさに混ぜて魚に与えます)および浸漬ワクチン(ワクチンの中に魚を入れることにより、皮膚等からワクチンを吸収させます)が試作されました。しかし、実用化のためにはワクチンの最適な投与量、安全性、魚体への残留性などを調べることが必要です。そこでこの研究ではアユの冷水病のワクチンを実用化することを目的に3つの研究課題に取り組みます。

研究内容(参考資料4
(1)ワクチン株の物理的化学的試験とワクチンの作製
 ワクチンを製造する株(用語の解説)について、実用化の際に必要とされる種々の試験(性状試験、不活化試験(用語の解説)等)を行います。また、試験用のワクチンを製作し、共同機関に供給します。
(2)経口ワクチンの実用化試験
 腸で溶けるマイクロカプセル化した経口ワクチンは、現在作製されている試作ワクチンの中で、最も安定して有効性が示されており、実用化への最有力候補と考えられます。そこで、人工種苗および湖産種苗を用いて、実用化の際に必要となる、ワクチンの安全性試験(試作ワクチンを多量に投与して、アユでの副作用の有無を検討)、ワクチンの薬理試験(アユの各成長過程における有効性、最小有効投与量等を検討)、ワクチンの残留に関する試験(ワクチンを添加したえさの腸内滞留時間を検討)を行います。
(3)浸漬ワクチンの実用化試験
 浸漬ワクチンについて、実用化の際に必要となるワクチンの安全性試験、薬理試験を経口ワクチンと同様に行います。

成果の活用
 試作ワクチンの最適投与量、安全性、残留性を確認し、その実用化を図ることにより、冷水病の予防が可能となります。

研究実施期間
 平成17~19年度

研究実施機関
 水産総合研究センター養殖研究所、神奈川県水産技術センター内水面試験場、滋賀県水産試験場、広島県水産試験場

[用語の解説]
・ワクチンを製造する株
 細菌において、純粋に培養され、同一の遺伝子を持つ集団(系統)を「株」と呼びます。2つの菌は、同じ種に属していても、遺伝子が少しでも異なる場合には、異なる「株」として区別されます。ワクチンの製造は、その有効性を安定させるため、株を決めて行われます。
・不活化試験
 この研究では薬剤で処理し殺した細菌(死菌ワクチン)を用いますが、実際に細菌が死んでいるか調べる試験が不活化試験です。