プレスリリース

平成17年8月25日
独立行政法人水産総合研究センター
数値シミュレーションモデルで大型クラゲの来遊を予測
-大型クラゲ対策に朗報-


【要旨】
 独立行政法人水産総合研究センターでは、農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」において大型クラゲの来遊予測手法の開発に取り組んでいる。その一環として、九州大学応用力学研究所と共同で数値シミュレーションモデルによる研究を実施し、今年度のこれまでの来遊状況を再現するとともに、9月中旬までの予測を試みた。
 この結果、このシュミレーションモデルにより、7月上旬以降の大型クラゲの来遊をほぼ再現できることが判明するとともに、9月中旬には津軽海峡に達することが予測された。
 今後とも、大型クラゲの沿岸への来遊経路の詳細な解明や来遊予測の精度の向上のため、更なる調査研究を進めて参りたい。




数値シミュレーションモデルから推定された
7月20日、8月19日及び9月18日における大型クラゲの分布域


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
本部 総合企画部 広報官 皆川 惠 TEL:045-227-2624
日本海区水産研究所 企画連絡室長 松尾 豊 TEL:025-228-0457
  日本海海洋環境部長 飯泉 仁 TEL:025-228-0587
  海洋動態研究室長 加藤 修 TEL:025-228-0616
  海洋動態研究室 渡邊達郎 TEL:025-228-0619


参考資料
図1~3

【研究の背景】
 ○大型クラゲが、平成14、15年と連続して我が国沿岸に大量出現し、漁業に甚大な被害をもたらした。本年度も7月の時点で既に相当量が出現している。
 ○大型クラゲの発生海域は、東シナ海北部~黄海の中国・韓国沿岸と考えられている。
 ○大型クラゲは発生海域から海流に乗って日本海に来遊すると考えられているが、その経路及び年による変動については明らかにされていない。
 ○漁業への被害を軽減するため、大型クラゲの我が国沿岸への来遊経路及び来遊時期を予測することが、多方面から強く要望されている。
 ○大型クラゲの大量出現に伴う諸問題に的確に対応するため、独立行政法人水産総合研究センターでは、平成16~18年度に農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」で「大型クラゲの大量出現予測、漁業被害防除及び有効利用技術の開発」を実施している。

【成果の内容・特徴】
 (1)九州大学応用力学研究所で開発された海洋大循環数値シミュレーションモデル(RIAMOM)を用いて、海面高度データを同化する(組み込む)ことにより、日本海の海流構造をリアルタイムに再現した。さらに、大型クラゲが大量出現した年(平成15年)の気象条件を用いて1ヶ月程度の海流予測を行った。
 (2)再現及び予測された海流構造を元に、日本海における大型クラゲの分布及び来遊予測を行った。独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所が実施した東シナ海における本年7月8~20日の大型クラゲ分布情報(図1)及び日本海区水産研究所が実施している対馬南端における定置網モニタリング情報に基づいて、対馬海峡の西・南境界(図2)から大型クラゲが流入したとしてシミュレーションを行った。その際、流入が6月23日から始まり、7月15日に最大水準に達し、その状態を9月15日まで継続するように流入密度を設定した。
 (3)モデル結果によると(図2)、大型クラゲ分布の先端部は6月30日から7月10日の間に対馬に、7月20日から7月30日の間に島根半島に到達した。この結果は、日本海区水産研究所が収集している大型クラゲ目撃情報(対馬では7月8日に初めて目撃、島根半島では7月28日に初めて目撃;日本海区水産研究所ホームページhttp://jsnfri.fra.affrc.go.jp/ の「大型クラゲ関連情報」を参照)とほぼ一致した。
 (4)8月19日現在の大型クラゲ目撃情報から得られた大型クラゲの分布状況(図3)も、同モデルから推定された分布状況(8月19日)とよく一致した。
 (5)同モデルの計算結果によれば、大型クラゲの分布域は9月中旬には津軽海峡にまで達している可能性がある。

 
【今後の課題・展望】
 今回の結果から、大型クラゲの日本海への来遊状況を、ほぼ再現することができたと考える。ただし、沿岸への来遊には、短期的な気象条件が大きく関与すると考えられているが、その機構については現時点ではモデルに組み込まれておらず、今後モデルの改良が必要である。また、府県の沿岸・沖合定線観測データを入れてモデルの高度化を図る予定である。さらに、同モデルを用いて大型クラゲの来遊予測をする際には、沖合域における分布情報が不可欠であり、今後、情報収集方法を考える必要がある。