プレスリリース

平成18年1月13日
独立行政法人水産総合研究センター
日本海における放流ヒラメの移動を解明
-DNA標識による追跡調査で-


【要旨】
 人工的にふ化して育てた稚魚(種苗)を放流してヒラメを増やそうという試みが全国で行われているが、稚魚につける適当な標識がなかったことから漁獲されたヒラメがどこで放流されたものかがわからず、放流効果の正確な評価が困難であった。
 そこで、水産総合研究センターでは、DNAを標識とした放流ヒラメの追跡手法を開発し、関係各県と連携を図りつつ、これまでに約3,000個体の漁獲された放流魚を分析した。その結果、一部には300km以上も移動したと考えられるヒラメもあったものの、全体的にみれば放流ヒラメの80%以上は、放流された府県内で漁獲されていると推定された。
 今回の調査結果を基に今後も府県間で連携した調査を継続することにより、放流効果の正確な評価や放流場所の選定など、ヒラメ放流事業の効率化が進むものと期待される。


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
本部 総合企画部 広報官 皆川 惠 TEL:045-227-2624
日本海区水産研究所 企画連絡室長 松尾 豊 TEL:025-228-0457
   海区水産業研究部長 佐藤善徳 TEL:025-228-0634
   沿岸資源研究室長 藤井徹生 TEL:025-228-0644



参考資料

[研究の背景]
・ヒラメは我々日本人にとってなじみの深い魚であり、沿岸漁業の重要な対象種になっている。また、作り育てる漁業の一環として、人工的にふ化して育てられた稚魚(種苗)の放流も全国で行われている(平成15年度全国放流数2,544万尾)。
・ 北海道以南の日本海で比較的大型のヒラメに標識をつけて放流した調査の結果から、日本海沿岸のヒラメ成魚は成長に伴って南あるいは西に向かってときには数百kmも移動することが知られている。しかし、稚魚につける適当な標識がなかったことから、漁獲されたヒラメがどこで放流されたものかは不明で、正確な放流効果の算定が困難であった。

[成果の内容・特徴]
 DNAを標識とした放流ヒラメの追跡手法は、放流前に種苗のDNAを分析してデータベースに登録しておき,漁獲された放流魚のDNAと照合することによりそのヒラメがどこで放流されたものであるかを明らかにするというもので、水産総合研究センターで独自に開発した技術である(図 参照)。DNA分析はウロコ1枚からでも可能であり、標識を確認するためにヒラメを買い上げる必要はないなどの特徴を持つ。また、人工ふ化して育てたヒラメの多くは、からだの裏側(目のない側)に黒い色素が沈着するため、天然ヒラメとの区別は容易である(図の右下部分参照)。
 この技術を用いて、平成12年度から日本海ブロック12府県の関係機関と連携して調査を開始し、これまでに約2,000個体の種苗と約3,000個体の漁獲された放流魚を分析したところ、以下の結果を得た。

①一部には300km以上も移動したと考えられるヒラメもあったが、全体的にみれば放流ヒラメの80%以上は放流された自府県で漁獲されている。
②放流ヒラメの移動は年齢的には1歳魚以上、季節としては晩秋から冬にかけて活発になる。
③能登半島より北で放流した場合、能登半島を越えて西方に移動することはない。すなわち、能登半島が移動の障壁となっている。

[今後の課題・展望]
・ この技術を用いることにより、府県ごとの放流効果の比較や最適な放流場所の探索が可能となった。
・ したがって、今後も府県間で連携した調査を継続することにより、放流効果の正確な評価や放流場所の選定など、ヒラメの栽培漁業の効率化が進むものと期待される。


図 DNAを標識とした放流ヒラメ追跡手法の原理