プレスリリース

平成18年9月21日
赤潮プランクトンの球形シャットネラはディクチオカ属であることが判明
(参考資料)

[背景・ねらい]
 赤潮生物シャットネラ属藻類は、大規模赤潮を形成する極めて有害な赤潮生物であり、1972年に播磨灘で71億円にのぼる史上最大の漁業被害をもたらした原因プランクトンである。 近年、シャットネラ・グロボーサ(図1)による魚類への悪影響が報告されるようになってきた。 本種は以前、球形シャットネラと呼ばれ、紡錘形を呈するシャットネラ・アンティーカなどよりも先行して出現することから、それらの前駆細胞と考えられていたが、1994年に原らによって別種として報告された。本種は形態が球形である以外、他に形態学的な特徴に乏しく、現場でもそのモニタリングに支障を来している。 ディクチオカ属藻類(図2、3)は、ケイ酸でできた特徴的な多角形の骨格を持つプランクトンであるが、骨格を持たない遊走細胞のステージを有することも報告されている。 そこで本研究では、シャットネラ・グロボーサとディクチオカ属藻類の両者について、リボゾームRNA遺伝子の塩基配列の決定を進めることにより、本種とディクチオカ属藻類の分類学的な再検討を行うことを目的とした。


[成果の内容・特徴]
 まず、培養したシャットネラ・グロボーサについて、リボゾームRNA遺伝子の塩基配列を決定し、その配列を既存の遺伝子データベースと照合した結果、ディクチオカ属藻類のディクチオカ・スペキュラムの塩基配列と最も相同性が高いことが判明した。 そこで、日本各地から得た試料をもとに、シャットネラ・グロボーサに加え、ディクチオカ属藻類について、リボゾームRNA遺伝子の塩基配列の決定を試みた。 その結果、8海域の海水サンプル中より得たシャットネラ・グロボーサ、ディクチオカ・スペキュラムの2変種、およびディクチオカ・フィブラの塩基配列決定に成功した。

 これらの塩基配列を比較した結果、一見シャットネラ・グロボーサと考えられる個体の塩基配列は、ディクチオカ・フィブラの配列と一致するものと、ディクチオカ・スペキュラムの1変種の配列と一致するものとがあることを確認した(図4)。 このことから、従来シャットネラ・グロボーサとされてきた種は少なくとも2種のディクチオカ属藻類の骨格を持たない遊走細胞であることが判明した。

 さらに、各々の形態を詳細に比較したところ、ディクチオカ・フィブラの塩基配列と一致した個体はシャットネラ・グロボーサの形態と一致するのに対して、ディクチオカ・スペキュラムの塩基配列と一致した個体は、それらとは葉緑体の形態が異なることがわかった(図1、5)

 これらのことから、シャットネラ・グロボーサの正体は、ディクチオカ・フィブラの骨格を持たない遊走細胞であり、ディクチオカ・スペキュラムの骨格を持たない遊走細胞と外形は非常によく似ているが、葉緑体の形態によって区別できることが明らかとなった。


[今後の課題・展望]
 ディクチオカ属藻類はヨーロッパで養殖魚へい死の原因となっており,近年わが国でも本種によるサケのへい死やカンパチなど養殖魚への悪影響が報告され始めているが、本種の生理・生態に関する知見はほとんどない。 今回のシャットネラ・グロボーサの真の種が明らかになったことにより、モニタリングがより正確に行えるようになり、赤潮生物としての本種の発生機構解明など今後の研究への進展が期待される。


<用語説明>
・ラフィド藻綱:
 不等毛植物門に属する一分類群。
 ラフィドモナス目バクオラリア科から構成される。
 海産の有害赤潮生物としては、シャットネラ属、ヘテロシグマ属、フィブロカプサ属が知られる。
 基本的に単細胞で、2本の鞭毛を持ち遊泳する。

・シャットネラ属:
 赤潮の原因となる極めて有害なプランクトンで、ラフィド藻綱の一種。
 わが国では6種が知られる。細胞の大きさは30~130μm。

・ディクチオカ属:
 ケイ質鞭毛藻とも呼ばれる。六角形や八角形の骨格をもつ。

・リボゾームRNA遺伝子:
 リボゾームは細胞質に存在する30ナノメートル程度の顆粒であり、DNAの情報をもとにタンパク質合成を行う。
 リボゾームは大、小サブユニットからなり、リボゾームRNAとタンパク質から構成される。
 このリボゾームRNAを作り出すのがリボゾームRNA遺伝子。
 これは生物が共通的に有し、系統樹を作るときによく用いられる保存性の良い遺伝子の一つである。