プレスリリース

平成20年1月17日
独立行政法人水産総合研究センター
理事長 川口 恭一
平成20年 年頭所感


1 2007年は、「地球環境変動」や「食の安全・安心」に関する問題が特に注目された。

 2月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書が発表され、地球規模の温暖化が世界の共通認識となった。 それを待つまでもなく我が国沿岸でも北の地方でサワラが獲れたり、サンマの漁場が北に移動したりといった、資源の回遊分布に従来とは異なる変化が見られている。
 温暖化問題だけでなく、国際的な資源であるまぐろ類やウナギの危機的な資源状況が伝えられ、漁獲や取引の一層の制限が決定された。
 さらに燃油の度重なる値上げなど水産業を取り巻く環境変化は著しい。水産物需要が世界中で逼迫したことによる日本の“買い負け”現象など、環境、資源、経済等の分野でグローバル化が加速している。
 このような状況を見れば、一層、国際的視点を踏まえつつ、多くの研究分野が連携した水産研究開発課題の必要性を痛感している。


2 折しも、水産をめぐる昨今の情勢変化を踏まえ、3月に新たな水産基本計画が策定され今後5年間の政策方針が示された。 水産総合研究センター(以下、水研センター)は、これを技術的側面から支えるため、政府の「水産研究・技術開発戦略」や「水研センター中期目標」の見直しに協力するとともにこれを受け、水研センターの中期計画の点検と確認を行った。
 中期目標期間(18年度~22年度)の喫緊の課題に機動的かつ弾力的、適切に対応するため、昨年2月に仮想的組織である「まぐろ研究所」を設置し、11月には海洋広域データの収集解析、海洋変動等のモデル開発や予測等を行う全国研究開発拠点として「海洋データ解析センター」設立した。
 クロマグロの3歳魚採卵や海況予測システムであるFRA-JCOPE本格運用など一定の成果を挙げ、その他にも、国民生活や水産業に大きく貢献する技術の基礎・基盤や、所要の技術の構成要素となる研究開発課題をスタートさせるなど、着実に布石を打ってきた。


3 今年は、これら布石を成果に向けて進展させるときである。最近の水産を取り巻く状況の変化に対応し、重要な技術的課題の解決に取り組み、世論や政策にアプローチすることを含め、積極的に攻めていく年としたい。 具体的には、特に以下の4点に重点的に取り組んでいく。

  第1には、地球温暖化問題への貢献である。 7月の洞爺湖サミットでは、地球温暖化問題が主要議題となろうが、他の研究機関と協力してこれら問題への技術的貢献を行うとともに、影響緩和や対策技術等の研究開発にも努力を傾注していく。

 第2には、水産物の安定供給の鍵である我が国周辺水域の水産資源への対応である。 昨年、我が国初の海洋基本法が施行されたところであり、本年はこれに基づき海洋基本計画が策定される。 水産資源についてもより国益を踏まえた保存と管理、そして持続的利用が求められよう。 水研センターは、これまでも、水産資源の回復・管理に技術的側面で貢献してきた。 今後も国連海洋法条約にある“自国が入手できることのできる最良の科学的根拠”を提供できる国内唯一の研究機関であるという自負をもって、依然として低位水準にとどまっている我が国周辺水域の水産資源の回復・管理のため、行政と一体になって取り組んでいく。

 また、ウナギなど国際的に取引される資源の持続的利用などについても積極的に貢献していく。 ヨーロッパウナギの稚魚の国際取引は、ワシントン条約により来年3月から規制される見込みとなっており、生産・消費現場への影響が懸念されるところである。 水研センターの人工種苗生産技術は、シラスウナギまで3桁のオーダーで生産できる段階となっているが、これをスケールアップするためには、天然親うなぎの成熟やレプトケファルスの生息環 境解明等が必須である。このため、新しい取り組みとして、ウナギの産卵場とされるマリアナ諸島海域周辺、駿河海山などに調査船を出し、ウナギの生態調査を行いたい。 これは私が是非かなえたいと考えていることである。

 第3には、我が国と漁場を共有する周辺諸国との連携、そして世界の水産研究におけるリーダーシップの発揮である。
 昨年秋、札幌において日韓中研究機関長会議を開催し、共通の海域における海洋環境と資源変動についての調査研究協力強化を確認した。 これに基づき本年は、『東シナ海における水産資源の変動に関するワークショップ』の開催や大型クラゲに関する研究など6項目を重点的に推進する。

 さらに、10月に横浜で開催される第5回世界水産学会議には、米国、英国、豪州、インドなど世界各国から水産学研究者が集まるが、地球規模で将来の水産をどのように発展させていくべきか、議論を深めるため水研センターは積極 的に支援協力していきたい。

 最後になるが、第4には、研究開発のニーズを的確に把握するとともに、その成果を迅速に社会還元することである。 水研センターの研究開発の成果は国民社会、水産業や行政に活用されてこそ生きてくるものである。 このため、関係団体、企業、大学等外部機関との連携推進の中核となる「連携推進本部(仮称)」を設置し、本部、各水産研究所等がより密接に連携し総力を挙げて連絡調整の強化を図り、外部機関との情報交換、研究開発ニーズの把握、共同研究の推進、 研究成果の普及などスピード感をもって積極的に発信し、むしろこちらから売り込んでいくといった攻めの姿勢で推進していくこととする(詳細別紙)。 これについては、いずれは水研センターだけでなく、水産大学校や海洋大学など他の研究機関とも一緒になって広く進めていきたい。
 また、水産技術の普及と利活用を積極的に促進するため、技術情報等の提供のツールや機会の充実を図ることとしている。 現在、水研センターの企画・編集、水産学会監修による新技術論文誌「水産技術」の4月以降の発行に向け、準備を行っているところである。


4 昨年末、政府の「独法整理合理化計画」が取りまとめられた。水研センターとしての組織統合の事態は無かったが、全ての独法行政法人共通的に指摘されている事項に対し、適切確実に対応していかねばならない。 また、この整理合理化計画に含まれていることでもあるが、水産分野における大学、地方水産試験場、水研センターそれぞれの研究機関の役割分担を明確にしつつ、課題の重点化の見直しを進めていくとともに、産学官の連携を加速・強化していく。
 そしてこれからも国の施策の技術的側面を支える全国的な中核研究機関として、国際的視点を踏まえつつ、その役割を果たし、頼りにされる水産総合研究センターを目指して役職員一体となって取り組んでいく考えである。

了    


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
経営企画部 広報室 スポークスマン 本間広巳 TEL:045-227-2624