プレスリリース

環境条件の制御によるカンパチの早期人工種苗生産に成功
(別紙資料)


背景
 独立行政法人水産総合研究センター(以下水研センター)が中核機関となり、共同研究機関として、鹿児島県水産技術開発センター、国立大学法人東京大学、同東京海洋大学、同長崎大学、社団法人宮崎県水産振興協会および日本水産株式会社大分海洋研究センターとカンパチの種苗生産および養殖技術の開発に取り組んでいる。

 国内で養成したカンパチ親魚(写真1)の通常の産卵期は5~6月であるが、天然親魚は中国海南島からベトナム沖を産卵場としており、産卵期は11月から翌年3月と推定されている。 国内養成親魚の産卵期が約半年遅いことに伴い種苗生産開始時期も遅くなることが、国内で生産された人工種苗を養殖用種苗として使用する際の不利な点と考えられている。


早期人工種苗生産に成功
 養成親魚の産卵期を天然魚のそれに近づけるため、水研センターで先に開発したブリの12月採卵のための環境条件の制御による成熟促進技術をカンパチに応用し、陸上水槽内で親魚の成熟を促進させるために環境条件、特に日長と水温の両条件を人為的に制御した。 平成18年度に水研センター五島栽培漁業センターで実施した予備試験においては、この制御を開始した90日後に養成親魚の成熟促進が認められ、12月下旬に卵が得られたものの少数で、受精卵を得るまでには至らなかった。 そして、平成19年度に再度同様の条件で五島栽培漁業センターと養殖研究所栽培技術開発センター古満目分場の2ヵ所で早期産卵試験を行った結果、ともに親魚の成熟促進が確かめられるとともに、平成19年12月21日と同23日の両日にカンパチ養成親魚では世界で初めてこの時期に受精卵合計約56万粒を得ることに成功した。

 得られた受精卵は、いずれも採卵した日のうちに養殖研究所上浦栽培技術開発センターに輸送して種苗生産を開始し、平成20年1月28日(日齢36)と同30日(日齢36)に取り揚げ(写真2)を行った結果、合計で約1万3千尾(平均全長28mm)の早期種苗の生産に成功した(写真3)。 平均生残率は7.6%と、通常期に得られた卵を用いた種苗生産試験の結果と比較しても遜色のない結果を示した。これらの早期種苗は、3月末には全長で20cm前後(体重で100g程度)に達し、中国産天然種苗と比較してもサイズの点で勝る種苗に成長することが期待される。


今後の展望
 人工種苗の大量生産飼育技術へのグレードアップを図るとともに、中国産種苗よりも安価 な種苗の生産技術開発に重点を置き、このような種苗が安定的かつ大量に生産できるような 技術とシステムを構築する。

 早期種苗は、通常期の種苗生産よりも生産開始時期を早められることによりサイズの点で同時期の中国産天然種苗と比較しても全く遜色がない。 これに加えて、春から秋の高成長が期待できることから、現在、大型の中国産種苗を用いても約1年半を要している出荷までの養殖期間を約1年程度に短縮し、養殖に関わる大幅なコスト削減につながるとともに安全・安心な養殖カンパチの供給が期待される。