プレスリリース

世界初!飼育条件下でヤシガニの交接から産卵に至る一連の繁殖に成功
(別紙資料)


【研究の背景】
 ヤシガニは、体重が3kg以上に達する世界最大の陸生甲殻類で、インド洋から南太平洋にかけての島々に広く分布しています。 これらの島々では古くから地域住民の貴重なタンパク源として食され、バヌアツを始めとした多くの地域では乱獲のために絶滅の危機に瀕しています。 日本では南西諸島に生息し、古くから食材やはく製などに利用されてきました。 特に近年は、地域特産種として広く知られるようになり、観光客に珍味として食されたり、ペットとして取引されたりして、乱獲による資源量の急激な減少と小型化が懸念されています。 そのため、本種は環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)に指定されています。 本種の幼生は海でふ化し、浮遊幼生期を海で過ごしますが、稚ガニへの変態以降は陸上生活に移行することから陸上生物とみなされ、水産動物に適用される漁業調整規則などの捕獲制限や規制を受けずに現在に至っています。

 繁殖期になるとヤシガニは、まず雌雄ペアで交接を行います。 交接とは他の多くの動物で言ういわゆる交尾のことです。 本種の交接は、雌雄が腹部を合わせ、足を組みあわせた状態で行われます。 雌雄の腹部が密着したところで、雄は精包と呼ばれる精子を包んだ袋が紐状に連なった真っ白なゼリー状の物体を雌の腹部体表に付着させます。 このようにして雄は雌に精子を渡します。雌は受け取った精包を使って産卵時に体外受精を行い、受精卵を抱卵します。

 本種の交接に関する知見は1971年にマーシャル諸島での1事例のみ、また、本種の産卵については全く明らかにされていません。 このため、人為的にペアを交接させ、さらに産卵させるといった繁殖行動を飼育下で成功した事例が全くないのが現状でした。



【研究の内容・特徴】
 絶滅が危惧されているヤシガニの繁殖生態(交接や産卵など)を調べ、飼育下で交接・産卵という一連の繁殖を成功させることは、効果的な資源管理方策や増殖のための安定的な受精卵の確保、並びに種苗生産を行う上で極めて重要です。 そこで、西海区水産研究所石垣支所では地域特産種として期待される本種の持続的な利用を目的とし、平成17年から竹富町鳩間島でヤシガニ資源の基礎調査を行い、さらに平成19年度からは主に繁殖生態を明らかにするための調査、並びに捕獲した雌雄を用いての繁殖試験に取り組んでいます。

 平成19年6月から平成20年7月にかけて、鳩間島で捕獲した雌雄のヤシガニを研究室に持ち帰り、飼育条件下で0.2~0.5kLの飼育容器を用いて、交接させることを試みました。 この実験は、日没後の20時前後に、上述した容器にはじめに雄1尾を収容後、数分後に雌1尾を収容して実施しました。 この結果、平成19年6月に世界で初めて飼育条件下での交接に成功したことを皮切りに、これまで合計で43回(平成20年7月12日までの集計)の交接に成功しています(図1)。 その後、研究施設内で産卵をさせることを試みた6個体の雌の中で2個体に受精卵を抱卵させることに世界で初めて成功しました(図2)

 今回紹介した飼育条件下での交接から産卵に至るまでの一連の繁殖の成功は、安定的に受精卵を確保する技術の確立、並びに絶滅が危惧されている本種の効果的な資源管理方策の提案に向けて大きく貢献するものと期待されます。 なお、本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金若手研究B(課題番号: 20710184)の助成を受けて実施しています。