プレスリリース

世界初!マナマコの放卵・放精(生殖行動)を誘発する神経ホルモンを発見
(別紙資料)


【背景】
 近年の中国での高級食材としての干しナマコ需要の急拡大をうけて、国産のマナマコの水揚げと輸出額が 年々急増していますが、一方で、マナマコ資源の保護と育成が急務となっていました。マナマコ漁が行われ ている各地方自治体の栽培漁業センターでは、毎年、種苗放流の為の稚ナマコの生産・出荷を行っています が、これまでは効果的な産卵誘発法が無く、十分な種苗の供給が困難でした。雌個体から産卵された卵で なければ受精しないために、親ナマコを暖めた海水に浸漬する等の物理的な刺激を与えて産卵を誘発する 方法が行われていますが、その効果は不安定で成功率が低く、効果的な新しい産卵誘発技術の開発が望まれていました。
 共同研究グループは、平成18年度から「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用」の研究を開始し、 マナマコの産卵誘発ホルモンの解明に取り組んでおり、その成果が期待されていました。



【内容】
 九州大学の吉国通庸教授の研究チームは、マナマコの放射神経から分泌され、マナマコの精巣・卵巣に 作用して成熟した精子と卵子を産ませる作用を持つ神経ホルモンの精製に成功し、自然科学研究機構の大 野薫助教の研究チームと協力してホルモンの化学構造を明らかにしました。これらの研究成果を基に、 水産総合研究センターの山野恵祐チーム長の研究チームが、マナマコ種苗生産の為の実証試験を行い、 産業レベルでの実用化が可能であることを明らかにしました。
 今回発見された神経ホルモンは、アミノ酸5個からなる低分子量のペプチドで、産卵期の親個体に体内 濃度が10nM(300gの個体であれば、100万分の2グラム)となるように注射すれば、およそ1時間後に放卵 行動(または放精行動)を開始することが明らかになりました。また、この神経ホルモンの研究の過程で、 親ナマコの成熟度の判定法を開発し、産卵誘発の最適時期を決めることが可能となりました。
 今回発見された神経ホルモンは、“首を持ち上げて左右に振りながら放卵・放精を行う” マナマコ特有 の行動にちなんで、クビフリン(Cubifrin)と命名し、クビフリン及びそれを用いた放卵・放精誘発技術 については特許出願しました。


  番  号:特願2008-216517
  発明名称:ナマコ放卵・放精誘起剤、及びそれを用いたナマコの生産方法
  発 明 者:吉国通庸(九州大学)、大野 薫(自然科学研究機構)、
         山野恵祐、淡路雅彦、松本才絵、藤原篤志(水産総合研究センター)

【効果】
 今回の研究成果を基に開発した親ナマコの成熟度判定法とクビフリンによる産卵誘発法を用いれば、 安価で簡単でありながら確実に産卵を誘発することが可能となり、マナマコ自身が持つ天然のホルモン を用いるため、極めて安全な産卵誘発法であると言えます。従来行われていた物理的な刺激を与える 方法は全く不要となり、これまでマナマコの産卵誘発用に使用していた海水処理設備・施設は全て他 に転用することが可能となります。今回の研究成果により、マナマコの採卵における技術的な問題は、ほぼ解決されたと言えます。



【今後の展開】
 今後は、発見した神経ホルモンが、産卵の誘発だけではなく、卵巣や精巣の発達にも作用を示すか否か を解析すると同時に、さらなる関連ホルモンの研究を継続します。
 また、九州大学と生物系特定産業技術研究支援センターとの共催で、全国のマナマコ種苗生産従事者を 対象とした、本研究で解明された神経ホルモンと関連技術を用いた産卵誘発技術の習得のための「マナマコ 採卵技術講習会」を平成20年12月に福岡市で開催します。本講習会を通して技術の普及を速やかに進めるこ とにより、全国のマナマコの種苗生産の飛躍的な効率化が期待されます。



【資料】
 次の写真は、マナマコにホルモン注射を行い、人工的に放卵・放精行動を誘発したときの様子を水中ビデオで 撮ったムービーファイルから一コマ切り出したものです(撮影場所:九州大学大学院生物資源環境科学府附属水 産実験所)。左側が雌で、やや右下にいるのが雄です。
 マナマコの生殖孔は、頭部の右体側に一つだけあります。雌雄共に、その生殖孔から放卵(または放精)をし ている所です。卵はオレンジ色の紐状に写っていますが、これは直ぐに一つ一つの卵にほぐれます。精子は白 っぽく見えています。これも直ぐに海水に拡散していきます。マナマコの産卵動作は面白く、写真のように頭 を高く持ち上げて、左右に振って卵や精子を振り出す動作をします。この写真ではたまたま雌雄の個体が抱き 合っているように見えますが、これは偶然のようです。