プレスリリース
理化学研究所
水産研究・教育機構
-代謝マーカー情報を利用して環境低負荷型養殖の実現へ-
理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームの菊地淳チームリーダー、坂田研二テクニカルスタッフ、水産研究・教育機構中央水産研究所水産生命情報研究センター分子機能グループの馬久地みゆき研究員、西海区水産研究所亜熱帯研究センター生産技術グループの小磯雅彦グループ長、山口智史技術員らの共同研究チームは、沖縄三大高級魚の1つであるスジアラの代謝マーカー情報抽出に成功しました。
スジアラは「アカジン」とも呼ばれ、ハタ科魚類ならではの上品な味と癖のない淡白な肉質が人気で、マース煮(塩煮)をはじめとする南国特有の調理法で食されています。中華料理の高級食材として高値で取引されており、中国等への輸出商材として期待できます。しかし現状のスジアラ養殖では、給餌手法が最適化されていないため、成長が遅いうえに、内臓脂肪が多い「メタボ状態」にある魚が多いことが問題になっています。そのため、いつ、どのくらい給餌することが適切かを科学的に示し、健全なスジアラを効率的に育成するための給餌方法の開発が求められています。
そこで、共同研究チームは、摂餌に伴うスジアラの代謝変化を詳細に分析しました。次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析と核磁気共鳴(NMR)法によるメタボローム解析を統合させたノンターゲット型解析を行ったところ、概日リズムに伴って短時間で変化する代謝と、絶食中や摂餌後にゆっくりと変化する代謝の、2種類の代謝マーカー情報が抽出されました。概日リズムに関わる短時間の代謝では、エネルギー産生に関連する核酸関連物質やクエン酸回路といった基礎的な代謝物質の濃度が変動し、摂餌による日数オーダーでの応答では、エネルギー蓄積に関わる遺伝子の発現や、ロイシンなどの分岐鎖アミノ酸濃度が変動することが分かりました。
本成果は今後、2 つの代謝リズムに基づくスジアラの効率的な給餌手法の開発や、余分な餌を残さない環境低負荷型養殖への発展に繋がるものと期待できます。
本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(8月24日付け:日本時間8月24日)に掲載されます。