栽培漁業の事業効果評価マニュアル
栽培漁業の事業効果は産地市場での水揚げ金額を「効果」、放流と調査にかかるコストを「費用」とする「費用対効果分析」、すなわち、お金の価値だけで評価されてきました。しかし、栽培漁業の「効果」は水揚げ金額にととまらず、経済波及効果や遊漁の効果、再生産効果なども発現しており、これらの効果を算出する手法の確立を求める声が多くあがっていました。(独)水産総合研究センターでは、平成20~22 年度に大学、民間の経済研究所、関係県と協?し、新たな事業効果評価手法を確立するプロジェクトを立ち上げました。本マニュアルはこのプロジェクト研究を通じて検討した栽培漁業の「効果」と「費用」の算出方法、ならびにお金の価値に換算が困難な「効果」も含めた新たな事業効果評価?法をわかりやすく解説するために作成しました。
プロジェクトが提案する新しい事業効果評価手法では、①放流魚が漁獲されることによる経済波及効果、②放流魚が流通することによる経済波及効果、③放流魚が加工原料として使用される場合の経済波及効果のほか、遊漁の効果として、④遊漁者が増加することによる経済効果、⑤放流により釣果が上昇したことの価値額、⑥遊漁者による放流負担金の支払い意思額、さらには⑦再生産効果を貨幣換算が可能な「効果」として捉えました。これらを計算するため、①~③は産業連関分析法、⑤はトラベルコスト法(TCM)、⑥は仮想的市場評価法(CVM)を用います。
マニュアルでは、これらの分析手法を行うために必要なデータの収集方法、得られたデータの集計方法、エクセルを使用した分析方法について簡潔に記述することを心がけました。また、効果の計算の流れが理解しやすいよう、旧宮古栽培漁業センター(現東北区水産研究所宮古庁舎)で実施したヒラメの放流試験の評価例を取り上げ、解説を加えました。また、エクセルの計算シートをファイルで添付することにより、計算式やデータの集計方法が視覚的にわかるように配慮しました。まずはPDF ファイルのマニュアル本文をプリントアウトして読み始めてください。主な図表は別添のエクセルファイルを参照しながら読み進めてください。
また、これまでに栽培漁業の事業効果を評価した論文がいくつも出ていますが、費用の積算項目は明確な定義が無く、統一されていないのが現状です。本マニュアルで取り上げる宮古のヒラメ例では、光熱水費や餌料費の他、人件費や減価償却費も積算したうえで事業効果を評価しました。さらに、貨幣換算が困難な「効果」については定性的に評価することを提案することにより、栽培漁業の事業効果をより多面的かつ実状に見合った形で評価できるものとなっています。
本マニュアルを活用することにより、事業の評価のみならず、栽培漁業の受益者が漁業者だけでなく広範囲に及ぶことが理解していただけると思います。本マニュアルが多くの都道府県で採用され、栽培漁業の本来の効果が評価されることで沿岸漁業の振興に貢献できれば幸いです。
水産総合研究センター研究推進部 清水智仁
TEL:045-227-2715