プレスリリース
独立行政法人水産総合研究センター
~大洋横断型観測によって明かされた中・深層の10年スケールの水塊変化~
要 旨
文部科学省科学技術振興調整費「北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究」(SAGE:Subarctic Gyre Experiment)が5年間の研究期間を終了し、その成果を一般にも公表するため、SAGEシンポジウム(推進委員長 花輪公雄東北大学教授)を開催します。この中で、多くの亜寒帯循環に関する重要な成果が発表されますが、その中の一つに、大洋横断型観測によって中・深層の十年以上の時間スケールの水塊変化を明らかにした研究(研究代表 深澤理郎JAMSTEC主幹)があり、高く評価されています。
結果の概要
1999年(P1),2000年(P17N)に北太平洋横断型の精密観測(図1)を、開洋丸(水産庁),みらい(JAMSTEC),J.P.Tully(カナダ)を用いて行った。同観測線での精密観測は米国が1985年と1993年に行っており、この10年程前の精密観測結果と比較することによって、十年規模の中・深層の水塊変化を検出するとともに、その原因を調べた。
[中層での変動] P1で1985年と1999年の差を取ると、高温化,低温化が交互に現れた(図2)。これは、観測前々年からの風の変化によるものであり(図4)、モデルでも再現することができた(図5)。また、同様の原因による低温化がP17Nでも観測された(図3)。
[深層での変動] P1の海底上1000mで高温化が発見された。その規模は0.005℃と小さいが、深層ではこれまでに知られていなかった変化である。これは、南半球から北太平洋に流れ込む深層水のもっとも冷たい部分が、P1で減少したことによる。同様のことがP17Nについても見いだされ(図6)、精密観測が存在する北緯24度でも、南半球から深層水が流入する西太平洋で、高温化がみつかった(図7)。
結果の意義
中層の変化は、風による湧昇の変化が現れたものである。湧昇の変化によって中・深層から上層へ供給される栄養塩の量が変化し、上層での動植物プランクトン、それを餌量とする浮魚類等の生産にも影響を及ぼすため、大洋規模の生物資源管理を考える上で重要なファクターとなる。
深層での変化は、「海水のコンベアベルト」に、これまで信じられていたよりもかなり早く変化が生じることをも示している。コンベアベルトによって海洋中での熱の分配がされているため、この変化は、地球温暖化をはじめとする気候変動に大きく関与しているとともに、気候変動を通して、海洋生態系にも大きな影響を与える。今後は、これらの地球規模の海洋大循環の変動をモニタするとともに海洋生態系への影響を評価していく必要がある。
独立行政法人 水産総合研究センター
本部 研究推進部 広報官 梅澤かがり TEL:045-788-7529
東北区水産研究所 企画連絡室長 奥田邦明 TEL:022-365-7196
混合域海洋環境部 伊藤進一 TEL:022-365-9928
参考資料