プレスリリース

平成17年10月20日
独立行政法人水産総合研究センター
東シナ海で生まれたマアジのこどもはどのようにして日本沿岸に来るか
-輸送モデルを開発-


【要旨】
 マアジは水産の重要資源ですが、その資源の管理や漁況の予測を行うための科学的データは未だ十分とはいえません。水産総合研究センターではマアジの一大産卵場が東シナ海南部の沖縄西方にあることを確認しています。しかし、資源を管理する上で重要なそこで生まれた卵・仔稚魚(こども)の運ばれる先がどのように決められ、太平洋や日本海へどれくらい来遊するかといったことはこれまで予測することができませんでした。今回、東シナ海で生まれたマアジの仔稚魚がどのように日本沿岸に運ばれるかを、流れなどの海洋環境のデータから数式化(モデル化)することにより予測する技術を開発しました。開発したモデルから計算した仔稚魚の分布は、2001年~2004年の間に東シナ海で採集して確認した実際の分布とよく一致し、このモデルの精度が高いことが確認されました。
 このモデルを用いることにより、日本沿岸へのマアジ仔稚魚の東シナ海からの輸送過程が推定可能となり、資源の管理や漁況の予測に貢献できるものと期待されます。


本件照会先:
独立行政法人 水産総合研究センター
本部 総合企画部 広報官 皆川 惠 TEL:045-227-2624
西海区水産研究所 企画連絡室長 北川大二 TEL:095-860-1600
  東シナ海海洋環境部長 高柳和史 TEL:095-860-1600
中央水産研究所 企画総務部長 入江隆彦 TEL:045-788-7601
  海洋生産部長 宮地邦明 TEL:045-788-7646


別  紙
図1a~4

【背景】
・ マアジは水産の重要資源。平成16年のマアジの漁獲量は約25万トン。
・ 東シナ海でふ化したマアジの仔稚魚は、成長しながら黒潮、対馬暖流等北東方向の流れにのり、日本周辺海域へと運ばれます。
・ マアジの仔稚魚が運ばれる経路、運ばれる量が分かれば来遊量変動の予測への道が開けます。
・ 東シナ海は広い陸棚が広がり、狭い場所で多数の水塊が混じり合う複雑な海域であり、仔稚魚輸送を予測するためのモデルがありませんでした。
・ そのため、卵・仔稚魚が運ばれる先がどのように決められ、太平洋や日本海へどれくらい来遊するかといったことが予測できませんでした。
・ そこで、マアジ仔稚魚の東シナ海での分布を明らかにし、海洋観測データをもとにマアジ卵・仔稚魚の輸送モデルの開発に取り組みました。

【成果の内容・特徴】
(1)東シナ海でのマアジの仔稚魚の分布
・ 2001~2004年の2~4月に東シナ海に設けた調査点において、仔稚魚の発育段階に応じた網を用い、分布調査を実施しました(図1a, b)。
・ ふ化後間もない体長3mm未満のマアジを2~3月に沖縄西方の東シナ海南部で多数確認しました(図2a)。
・ 分布調査の結果より、東シナ海でのマアジ仔稚魚が産卵場からどのように輸送されるか、その過程を把握しました(図2b)。

(2)マアジの卵・仔稚魚の輸送モデル
・ マアジの卵・仔稚魚の輸送モデルは、輸送先を予測する流れのモデル(図3)と輸送量の推定に重要なマアジの生残に関するモデルを組み合わせて計算します。
・ このモデルを用いることにより、実際に採集されたマアジの卵・仔稚魚の分布をほぼ正確に再現でき、このモデルの精度の高さが確認されました(図4)。

【今後の展望】
 今後、仔稚魚の餌を巡る環境に関わるデータを積み重ねることにより、モデルの精度が向上し、仔稚魚の太平洋、九州沿岸、日本海への配分予測がより正確に行えるものと期待されます。また、本モデルは東シナ海を産卵場とする他の魚類(サバ、ブリなど)への応用が可能であり、将来的には汎用的な卵・仔稚魚輸送モデルの構築へ繋がるものと期待されます。


(本成果は農林水産省委託研究プロジェクト「海洋生物資源の変動要因の解明と高精度変動予測技術の開発」の研究資金により得られたものです。)